介護の現場での感染対策

介護の現場での感染対策のアイキャッチ画像 介護の基本

この記事では、
感染対策
感染に気を付けなければならない疾病
について解説しています。

介護の現場での感染対策

感染対策の3原則

  • 感染源の排除
  • 感染経路の遮断
  • 宿主(ヒト)の抵抗力の向上

主な感染経路と原因微生物

接触感染(経口感染も含む)

感染者と直接的に接触、または汚染されたドアノブや医療器具などを介して間接的に接触することにより感染を起こす経路です。接触感染には、経口感染粘膜感染性行為感染などが含まれます。

経口感染は、病原体で汚染された水や食物などを飲んだり食べたりして感染を起こす経路のことです。特に便が手の指を介して口に入る経路を糞口感染(ふんこうかんせん)といいます。
経口感染の代表的な病原体は、ノロウイルスロタウイルス腸管出血性大腸菌などです。

粘膜感染は、医療的な処置中やケガによる出血が他者の目、鼻、口などの粘膜に付着し感染を起こす経路のことです。

飛沫感染

飛沫感染は、 感染している人が咳やくしゃみをした際に口から飛ぶ、5㎛以上の飛沫が、口や鼻、目などの粘膜に付着することによって感染する経路です。通常1M以内に床に落下し、空気中を浮遊し続けることはありません。ちなみに㎛は百万分の1メートルです
飛沫感染する病原体は、コロナウイルス、インフルエンザウイルス、マイコプラズマ菌、などがあります。

空気感染

空気感染は、感染している人が咳やくしゃみをした際に、口から飛び出した飛沫が乾燥し、飛沫核となっている病原体が感染性を保ったまま空気の流れによっ て拡散し、近くの人だけでなく、閉じられた同じ空間にいる人もそれを吸い込んで感染します。

飛沫と飛沫核ってなにがちがうの?
と思う人がいるかもそれないので、補足説明しておきます。

空気中に飛散した病原体を含む粒子の中で比較的大きく水分を含んだものを飛沫といい、比較的小さい飛沫から水分が蒸発して、軽くて非常に細かい4㎛以下の粒子飛沫核といいます。飛沫は無風状態の室内ではすぐに落下しますが、飛沫核は、長時間空気中に浮遊します。
空気感染する主な感染症は、結核、水痘、流行性耳下腺炎などです。水痘は水ぼうそう、流行性耳下腺炎はおたふくかぜのことです。

血液媒介感染

病原体に汚染された血液や体液、分泌物が、針刺し事故等により体内に入ることにより感染します。

血液を媒介する感染では、C型肝炎ウイルスヒト免疫不全ウイルス(HIV)などが代表的です。

感染対策の基本

手洗い

感染予防の基本は、「手洗いに始まって手洗いに終わる」といわれるほど、手洗いが重要視されます。1ケア1手洗いを徹底しましょう。

ポイントは、

  • 爪は短く切る
  • まず手を流水で軽く洗う
  • 石鹸を使用するときは、固形石鹸ではなく必ず液体石鹸を使用する。
  • 手洗いが雑になりやすい部位は、注意して洗う。
  • 石鹸成分をよく洗い流す。
  • 使い捨てのペーパータオルを使用する。(布タオルの共用はNG)
  • 水道栓は、自動水栓か手首、肘などで簡単に操作できるものが望ましい。やむを得ず、水道栓を手で操作する場合は、水道栓は洗った手で止めるのではなく、手を拭いたペーパータオルを用いて止める。

固形石鹸や布タオルがNGなのは、そこに菌が付着し繁殖してしまう可能性があるからです。

スタンダードプリコーション(標準予防策)

感染症や疾患の有無に関係なく排泄物や血液、汗をのぞく体液等を潜在的な感染源とみなして対応する予防策のことです。

すべての人の血液、体液、分泌物、嘔吐物、排泄物などに触れる時には、手袋マスクを着用します。触れる可能性がある場合にも、確実に着用する必要があります。必要に応じてゴーグルエプロンガウン等を着用します。手袋を外した時は、必ず液体せっけん流水で手洗いを行います。

汚染の除去

床などが、血液や嘔吐物、排泄物で汚染された場合は、必ず手袋を着用し、汚染物を除去し、次亜塩素酸ナトリウムや消毒用エタノールを使用して、清掃した後、乾燥させます。
次亜塩素酸ナトリウム金属を腐食させ、エタノールは、ゴム製品や合成樹脂などを変質させるので、清掃する場所によって使い分けるようにします。
次亜塩素酸ナトリウムキッチンハイター等に含まれており、介護の現場ではキッチンハイターを適宜濃度調整して使用することが多いです。

次亜塩素酸ナトリウムは用途に合わせた濃度があって、便や嘔吐物が付着した床などは、0.1%、衣服や、便座、手すりなどの消毒は0.02%程度とされています。

次亜塩素酸ナトリウムは、酸性の物質と混ぜると有毒な塩素ガスが発生するので、注意する必要があります。市販されてるトイレ用の洗剤には酸性の製品もあり、そういうのには、「混ぜるな危険!」って書いてあります。
あと、 希釈した次亜塩素酸ナトリウムは、時間がたつにつれて有効な塩素濃度が低下していくので、消毒液を作り置きしていると十分な消毒効果が得られないこともあります。なので、作り置きはせず、必要なときに必要な分だけ作るようにします。

キッチンハイターを使った消毒液の作り方を説明しておきます。

消毒対象必要な濃度原液の濃度希釈倍率1ℓの水を加えて作る場合の原液の量
便や吐物が付着した床やおむつ等0.15%50倍20ml
衣服や器具などのつけ置き、トイレの便座やドアノブ、手すり、床等 0.025%250倍4ml

市販されている家庭用塩素系漂白剤(ハイター、ブリーチなど)の濃度は約%です。

原液の量に50倍の水を加えれば濃度0.1%、250倍の水を加えれば濃度0.02%と覚えておけば大丈夫です。

キッチンハイターのキャップ一杯(約25ml)で0.1%の消毒液を作るなら水1250ml(25×50)、0.02%の消毒液を作るなら、水6250ml(25×250)といった具合です。

計算するのが面倒でしたら、500mlのペットボトル(キャップは約5ml)を使いましょう。

水で満たしたペットボトルに、キャップ2杯で0.1%、キャップ半分弱で0.02%です。

感染の危険がある疾病

結核

結核は、結核菌の飛沫感染空気感染により感染します。主な症状は  咳、痰、血痰、胸痛などの呼吸器関連症状と、発熱、冷汗、だるさ、やせ、などの全身症状です。

結核は、一般的な肺炎やインフルエンザなどの呼吸器感染症とは異なり、ゆっくりと進行し、初期の症状が軽いため、自分ではなかなか気づかず、診断時にはかなり進行していることがあります。

結核患者の大半は高齢者なのですが、高齢者にうつりやすいというよりも、 若い時に感染した結核菌が休眠状態のまま体内に残り何十年も経たのちに、糖尿病や癌、腎不全などの基礎疾患の治療や、加齢に伴う免疫の低下により再び活性化して、結核を発症するということが多いようです。

疥癬

疥癬は、ヒゼンダニの寄生により 発症する感染性の皮膚疾患です。このヒゼンダニは目には見えない小さなダニで、人の体温が生活するのに最適の温度で、人の肌から離れると長くは生きられません。高熱や乾燥に弱く、50℃以上の状態に10分以上さらされると死滅します。

メスの成虫は卵を産むために、人の手首や手のひら、指の間や、肘、脇の下、足首や足の裏、陰部などに疥癬トンネルと言われる横穴を掘って、そこに卵を産みつけます。疥癬トンネルは白っぽい数ミリの線として見えます。この疥癬トンネルと赤いブツブツが通常疥癬の特徴的な症状です。赤いブツブツはお腹や胸、脚や腕にできることが多く、強いかゆみを感じます。

感染経路は、接触感染のため、長時間の皮膚接触、衣類や寝具の共用などは避けるようにします。

疥癬には通常疥癬角化型疥癬(疥癬の重症型)があります。

通常疥癬は、治療を開始すると感染性はほとんどなくなります。入浴や洗濯は通常の方法で問題ありません。ただし、スタンダード・プリコーションとして、1ケア1手洗いを実施し、感染の可能性のあるものを直接手で触らないなどを徹底する必要があります。

角化型疥癬は、ヒゼンダニの寄生数が多く感染力が非常に強いため、個室管理とし、掃除機を毎日かける、シーツ・衣類を毎日交換する、ケアを行うときは予防衣とゴム手袋を着用する、入浴は最後にするなど、感染拡大防止対策を徹底する必要があります。

疥癬の治療では、殺ダニ剤の内服薬と軟膏が用いられます。軟膏は、症状が出ていないところも含めて、首から下の全身にくまなく塗る必要があります。ヒゼンダニは、熱・乾燥に弱く50℃では10分程度で死滅するので、角化型疥癬の場合には、洗濯物をビニール袋に入れ殺虫剤を散布するか、50℃以上の湯に10分以上漬け、その後に洗濯します。

日和見感染症

日和見感染症とは、免疫力が低下しているために、通常なら感染症を起こさないような感染力の弱い病原菌が原因で起こる感染症のことです。日和見感染症の代表的なものに、院内感染(施設内感染)が問題となっているメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)感染症、ヘルペスウイルス感染症、カンジダ症、ニューモシスチス肺炎、サイトメガロウイルス肺炎などがあります。

薬剤耐性菌による感染症

抗生物質を使い続けていると、細菌の薬に対する抵抗力が高くなり、薬が効かなくなることがあります。このように、薬への耐性を持った細菌のことを薬剤耐性菌といいます。

メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)緑膿菌に代表される各種の薬剤耐性菌は、抵抗力が保たれている健康な人に関しては病原性を示さないため、保菌しているだけでは健康障害に至ることはないので、耐性菌は健康な人も保持していることがあります。しかし、からだの抵抗力が落ちているときなどには、耐性菌による感染症にかかることがあり、この場合、抗生剤がきかないため、治療が難しくなります。免疫力が低下しているために通常なら感染症を起こさないような感染力の弱い病原菌が原因で起こる感染症のこと日和見感染症といいます。

薬剤耐性菌に関するポイントは、

  • 保菌しているだけでは、基本的に治療を行う必要はありません。
  • 通常では入浴で感染することはなく、特別に配慮する必要はありません。
  • 耐性菌は主に接触感染であり、感染防止には手洗いが基本となります。
  • 保菌しているだけでなく、MRSA感染症などを発症している場合は隔離が必要です。
  • 抗生物質は効きにくくなっていますが、アルコールなどの消毒液熱水は効果があります。

保菌と発症について少し補足説明しておきます。

MRSAは非常にありふれた菌で、鼻の中にMRSAを付着したまま過ごされる方もいます。MRSAを付着しているけれど、病気は起こしていない状態を「保菌」していると言います。
MRSAを保菌していても、健康な人であれば、数日で自分の抵抗力で駆除してしまいますが、高齢になるとそのまま「保菌」した状態が続くことがあります。
しかし、「保菌」しているといっても、家庭や施設で過ごせるような人であれば、重症化して、実害を及ぼすようなことはありません。つまりMRSAを『保菌』していても心配はなく、周りの人にも害は及ぼさないということです。
一方、MRSAを『発症』している患者というのは、感染した結果、咳やくしゃみ、発熱、下痢のような感染症状が現れている患者のことです。その場合は隔離するなどの対応が必要です。

腸管出血性大腸菌感染症

腸管出血性大腸菌感染症は、いわゆる食中毒で、O157等ベロ毒素を生産する菌の感染によるもので、死亡することもあります。これ以外の食中毒の原因菌としては、ブドウ球菌、サルモネラ属菌、腸炎ビブリオ菌、ボツリヌス菌などがあります。飲食物を介する経口感染がほとんどで、ヒトからヒトへの感染はあまりありませんが、患者の便や菌のついたものに触れた後、手洗いを十分にしなかった場合などは感染のリスクが高まります。食中毒に関しては『生活支援技術』という科目で詳しくやります。

帯状疱疹

帯状疱疹は、 身体の左右どちらか一方の神経に沿って、一定の時間で繰り返す刺すような痛みや、ヒリヒリ、ズキズキする痛みがおこり、これに続いて赤い斑点(はんてん)と小さな水ぶくれが帯状(おびじょう)にあらわれる病気です。

原因のウイルスは水痘・帯状疱疹ウイルスです。水痘はいわゆる水ぼうそうです。はじめて水痘・帯状疱疹ウイルスに感染したときは、水ぼうそうとして発症します。

水ぼうそうが治ったあとも、ウイルスは体内の神経節に潜んでます。加齢ストレス過労などが引き金となってウイルスに対する免疫力が低下すると、潜んでいたウイルスが再び活動を始め、神経を伝わって皮膚に到達し、帯状疱疹として発症します。

治療は、抗ウイルス薬の服用と神経ブロック注射などで痛みを軽減する治療を行います。
帯状疱疹が治ったあとも、長期間に渡って、帯状疱疹の痛みが続く、帯状疱疹後神経痛に移行することもあるので、帯状疱疹を発症した初期から痛みの対策を行なうことが重要です。

帯状疱疹を発症した場合、刺激が少ない方法で患部を清潔に保つことが大切です。入浴やシャワーは問題ありません。石鹸を使ってやさしく洗い、清潔にして、入浴後は処方された軟膏を塗ります。ただし水疱をつぶしてしまうと、帯状疱疹ウイルスによる二次感染の危険性もありますので、注意する必要があります。

神経痛が辛いときは、患部を温めると、痛みを和らげる効果があります。帯状疱疹の痛みは冷やすのではなく、適度に温めるようにします。痛みで交感神経が刺激されると血管が収縮して、血液循環が悪くなり、組織の酸素欠乏がおこることで発痛物質が作られ、さらに痛みをおこしてきます。冷やすことでも血管を収縮させ、同じように痛みをおこすもとになってしまいます。痛みを和らげる方法としては、カイロや温湿布を当てる、蒸しタオルで温めることも有効です。

水痘・帯状疱疹ウイルスの感染経路は空気感染ですが、帯状疱疹は、他の人に帯状疱疹としてうつることはないので、感染に関してはあまり気にしなくても問題ありません。ただし、水ぼうそうにかかったことのないこどもなどには、水ぼうそうとしてうつる場合があるので、そこは注意が必要です。

筆者も帯状疱疹にかかったことがあります。右側頭部あたりに針で刺すような痛みが頻繁に起こり、夜も寝られなかったので、かなりきつかったですね>,<

疱疹がでないタイプの帯状疱疹で、最初、肩こりが原因かと思ってマッサージやら針治療などにいってましたが、当然効果は出ず初期治療が遅れていて焦りました。帯状疱疹だと診断してくれた近所のペインクリニックに感謝です。

ノロウイルス

ノロウイルスは、感染性胃腸炎を起こします。季節的には、に流行することが多いです。集団生活を送っている施設で爆発的な流行をみることがあり、主な症状は腹痛、発熱、嘔吐下痢などです。

ノロウイルスの感染経路は、基本的に食品を媒介とする経口感染ですが、感染した人の糞便や嘔吐物などに触れ、手指などを介してウイルスが口に入る接触感染や、汚染された下痢便や嘔吐物が飛び散り、その飛沫が口に入って感染する飛沫感染もあります。

ノロウイルスの効果的な予防方法は、液体せっけん流水による手洗いです。帰宅時、調理の前後、食事前には必ず手を洗いましょう。ノロウイルス感染症の嘔吐物・下痢便の処理には、マスク・手袋・ガウンを着用し、メガネやゴーグルで目を防御します。ノロウイルスはアルコールに対する抵抗性が強いため、次亜塩素酸ナトリウムによる消毒が効果的です。

お疲れ様です。「介護の基本」10/13読破です。もう少しです!
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