この科目は、
「人が生まれてから死に至るまでのそれぞれの発達段階における特徴や発達課題、また、生涯発達の考え方についての理解」
となっていますが、介護福祉士国家試験ではほとんど老年期の特徴や老化に伴うさまざまな変化、またそれらが及ぼす影響に関する出題です。具体的には最近の5年間の試験では全8問中7問が老年期の問題でした。
残りの1問でエリクソンやピアジェの発達段階説のようなものが取り上げられているのですが、このあたりは真面目に勉強するとかなり労力が必要で、覚えるのも大変です。労力をつぎ込む費用対効果がかなり低いので、この記事ではカットしています。

働きながら勉強している方がほとんどだと思うので、できるだけ効率よくいきましょう。試験で高得点を取る必要はありません。合格点を目指しましょう。
時間に余裕がある場合は、
- ピアジェの発達段階
- エリクソンの発達段階
- ハヴィガーストの発達課題
あたりを勉強しておけば、+1点になるかもしれません。
まずは、エイジズムなど、この科目で登場する、用語をまとめていきます。
発達と老化の理解に関する重要な用語等まとめ
老年期の定義
■日本の官公庁の統計においては1970(昭和45)年以降から65歳以上を高齢者としています。
■国際連合のWHO(世界保健機関)の定義では、65歳以上を高齢者とし、65~74歳までを前期高齢者、75歳以上を後期高齢者、85歳以上を末期高齢者としています。
老化
老化は、加齢に伴い身体機能や精神機能が低下していく生理的変化です。受精から死までの全生涯の変化を指す場合を加齢、成長がピークに達した後の退行期の変化を老化と呼びます。高齢期はほかの発達段階に比べて最も個人差の大きい時期であり、個人に及ぼす加齢と病気の影響がその人自身に大きな影響を与えています。
筆者の勤務する施設でも、ものすごく元気で自分で買い物にいく96歳のおじいさんもいれば、80代で、ほぼADLが失われ、全介助のおじいさんもいます。個人差が大きいというのは実感としてよくわかります。
エイジズム
年齢を理由としたステレオタイプに基づく態度や行動をとることを、エイジズム(年齢による差別)と呼びます。高齢者を高齢者であるという理由だけで類型化した否定的あるいは肯定的な固定観念であり、それに基づく不当に否定的あるいは優遇された扱いは差別とみなされます。
※ステレオタイプ:行動や考え方が、固定的・画一的であり、新鮮味のないこと。

”年寄りは頭がかたい”。
”年配の介護職員は新人を追い込む”
というような物言いですね。
老性自覚
老性自覚は、自分が高齢者であるということに気づく、きわめて個人的な体験です。一般的に外的要因(定年退職、配偶者の死、年金の通知など)と内的要因(身体機能の低下、疾病など)によってもたらされます。

自転車こいだだけなのに息切れが・・歳か・・
社会情動的選択理論
中年期以降の社会的接触は減少するものもあるが、肯定的な感情経験を起こしやすい接触が選択され、否定的な感情を伴う接触は避けられるといった個人差による選択性があるという考え方。

ざっくりいうと、好きなコミュニティや人に近づいて、嫌いなコミュニティや人を避ける。という感じですね。これは年齢を問わずありますが、高齢になるとより顕著になります。
サクセスフルエイジング
老化に上手く適応した幸せな生き方を、サクセスフルエイジングと呼びます。その構成要素は、長寿であること、生活の質が高いこと、社会貢献をしていること、とされており、身体的健康、精神的健康、社会的機能や生産性、主観的な幸福感などが指標となります。

文字通りの意味ですが、主観的な~というところがポイントですね。周りからどう見られていても、自分がよければ幸福なのです。若い頃は自分と周りを比べがちなので、このように達観するのはなかなかむずかしいですね。
プロダクティブエイジング
アメリカの医学者ロバートバトラーにより提唱されました。これまで社会的弱者と差別的にとらえられた高齢者像ではなく、さまざまなプロダクティブな活動(生産的・創造的活動:学習、労働、家事、ボランティア活動、セルフケア(自分の体を管理すること)、趣味等)を行い、その知識や経験で社会貢献する高齢者像を目指す考え方です。

ケンタッキーのおじさんとして日本でも有名なカーネルサンダースの名言を紹介しておきます。プロダクティブエイジングを体現しています。
あなたは本当に老いていくのではない。
カーネルサンダース
自分が老いたと感じた分だけ、思い込んだ分だけ歳をとるのだ。
あなた自身が”歳をとった”と思わない限り、いくつになってもやれる仕事はたくさんある。
アンチエイジング
アンチエイジングとは、文字通り老化に抵抗するという意味をもち、老化の原因を抑制することで健康長寿を目指そうとする考え方です。老化に適応して幸せに生きるサクセスフルエイジングと対比させるなら、若者や中年層で使われることが多いかもしれません
QOL(Quality of life)
QOLは客観的QOL(身体状況や生活環境、経済状況など)と主観的QOL(幸福感や生きがいなど)の2つから考える必要があります。特に主観的QOLはさまざまな状況に対する心理的な評価であり、高齢者の生活と心理に関する理解を深めるための材料となります。
老化に伴う心身の機能の変化
老化による身体的機能の変化は、形態的な変化(見た目の変化)と機能的変化(生理的機能の変化)の複合といえます。生理的機能の減退が有病率や受療率に大きく関連し、身体的な予備力の低下、免疫機能の低下、回復力の低下が疾病を招く誘因になります。
※予備力… ある機能についての最大能力と平常の生命活動を営むのに必要な能力との差です。予備力が低下することにより、平常以上の活動を必要とする事態が生じたときに対応ができなくなります。たとえば、肺活量が低下し、普通に歩くときはなんともなくても、走ったり階段を上ると息が切れるといったことが生じてしまう。
呼吸
加齢による肺の弾力性の低下、呼吸筋の活動の不足などにより、肺活量、換気量の低下が起こります。また、咳反射の低下により誤嚥を起こしやすくなります。
嚥下機能
老化に伴い咀嚼・嚥下機能の低下、唾液や胃酸の分泌量の低下、栄養素の消化吸収の低下が起こるため、栄養素摂取に注意が必要になります。
膵臓・腎臓
加齢により膵臓のインスリン分泌作用の低下が認められ、糖代謝能力が低下する。また、腎臓では体内の老廃物をろ過する機能が低下する。
排泄機能
老化による排泄機能の低下は、尿意を感じても抑制がきかずにトイレに間に合わないなどの排泄動作能力の低下、咳やくしゃみによる腹圧の上昇による尿の漏れとなって現れます。
運動機能
運動機能の低下は、瞬発力、敏捷性、柔軟性、持久力、予備力の低下などに現れます。主な特徴は、筋力低下による動きにくさ、骨筋組織の脆弱化、関節可動域の制限、神経痛などの運動時の痛み、持久力・持続力の低下、反応速度の低下、運動後の疲労回復の遅さ等がある。
加齢とともに筋繊維の萎縮が進み、筋力が低下します。筋肉の老化は外観上、筋肉のやせとしてみられ、筋肉量の減少は上肢よりも下肢の方が顕著です。
平行機能の老化はバランスを失いやすくし、転倒などの事故につながる危険性が高くなります。
関節・骨
関節の老化は、軟骨の変化としてみられます。関節の痛みや拘縮が強くなると、歩行が困難になることもあります。
骨の老化によって骨密度が低下し、折れやすくなります。転倒により骨折しやすい部位は、大腿骨頸部、前腕、脊椎などです。
循環器系
老化に伴う循環器系の変化として、動脈の硬化、高血圧、不整脈の増加などがみられます。
老化に伴う感覚機能の変化
視覚
- 視力・調節力が低下する。視野が狭くなる。
- 奥行や対象移動を知覚する力が低下する。
- 順応が遅くなる。(明るいところから暗いところへ移動した際に目がなかなか慣れない等)
- 寒色系統・彩度明度の低い色が識別しにくくなる。
聴覚
- 高音域から感度が低下する
- 音の識別力が低下する。
嗅覚
- 嗅感覚が低下する。
味覚
- 甘味・苦味・酸味・塩味・旨味ともに感受性が低下する。
- 味覚の変化がみられる。
皮膚感覚
- 温度覚が減少する。
- 痛覚が低下する。
老化と記憶

記憶のしくみについては、「こころとからだのしくみ」で解説しています。
⇒こころとからだのしくみ「記憶のしくみと知能」
老化と人格
人格(パーソナリティ・性格)は、生得的な資質(気質)を土台として、幼少期の体験や学習を行う日常生活のなかで個人の一応の行動傾向が形作られ、青年期の自己確立の過程を経てほぼ安定します。いったん形成されたパーソナリティの基本的部分は、加齢のみが原因で大きく変わることはありません。
老年期の生き方や社会への適応は、それまでに形成されたパーソナリティと深い関係があると考えられています。アメリカの心理学者スザンヌ・ライチャードが 定年退職後の男性高齢者について5つの人格特性を見出し、これを体系化しました。介護福祉士国家試験でもときどき出題されるので説明しておきます。
社会適応型
円熟型
自分および自分の人生を受け入れ、未来に対しても現実的な展望を持っています。定年退職後も積極的に社会参加を行い、毎日を建設的に暮らそうと努力しています。

この円熟型の文章を書いていて思い出したのが、ニュースでも取り上げられていた、西本喜美子さんという90歳の女性です。インスタおばあちゃんで検索するとすぐ出てきました。こういう老年期を目指したいですね。
安楽椅子型 (依存型)
自分の現状を受け入れているが、他人に依存しており受身的です。定年退職を歓迎しており、責任から解放され楽に暮らそうとします。 円熟型のように積極的に新しいことに取り組もうとは思わないが、誘われれば新しい環境にも適応できます。
防衛型(装甲型)
老化への不安を、活動し続けることで抑圧して自己防衛しています。仕事への責任感が強く、さまざまな活動を続けようとします。その結果無理をしてケガなどをしてしまうこともあります。
社会不適応型
内罰型(自責型)
自分の人生を失敗とみなし、その原因は自分にあると考えます。自分を解放してくれるものとして、死を恐れておらず、うつ病になりやすい。
外罰型(憤慨型)
自分の過去や老化を受け入れることができません。人生で目標を達成できなかったことを、他人のせいにして非難します。
高齢者の心理
老年期うつ病
老年期のうつ病の特徴は、
- 環境の変化や精神的要因が発病の契機となりやすい 。
- 青年期のうつ病に比べて、慢性化しやすく、再発しやすい 。
- 若年者と比べ抑うつ気分が軽い。
- 身体的な症状(頭重感、腰痛、肩こりなど)の訴えが強いため、うつ状態がみえにくくなること(仮面うつ病)もある。
- 脳の疾患やパーキンソン病、糖尿病などの身体疾患、薬が原因で生じるものも多い。
うつ状態の高齢者への対応
受容的な態度
「がんばって!」、「やればできる」というようや励ましの言葉は、逆に本人を焦らせ追い込んでしまうことがあります。本人のつらい気持ちをただ受容するという対応が大事です。
全身の観察と身体のケア
日内変動(症状が午前中に悪く、午後比較的軽くなる等)に伴う症状の変化や抗うつ薬の副作用を観察し、身体へのケアや援助を行います。
自殺の予防
うつ状態では希死念慮(具体的な理由はないが漠然と死を願うこと)がみられることがあるので、話しを傾聴する、1人にさせないなどの予防に努めます。
高齢者の自殺の原因といわれてきたものは、健康問題、経済生活問題、家庭問題であるが、それらの延長線上にうつ病を発症しているケースが多くあると考えられています。
高齢者の場合、うつ病が認知症のリスクファクターになるとも考えられており、うつ病の予防と早期発見、早期治療が何よりも大切です。
近親者との死別
残された高齢者に大きな影響を与えます。身体的愁訴や受診が多いといったストレスに対する心身の反応が現れ、健康を損なうことがあります。
死別後は喪失―悲嘆―回復のプロセスをとると考えられているますが、進み方には個人差があります。十分に悲しむ事が、悲嘆を乗り越えるために有効であり、死別後の生活に抵抗するためには周囲からのサポートも重要です。
高齢者の疾病と生活上の留意点
高齢者の疾病の特徴
- 複数疾患の合併が多い。
- 症状が非定型的で、現れ方が教科書通りではない。
- 症状が長引き、慢性化することが多い。
- 寝たきり状態につながることが多い。
- 身体機能は個別性が高く、各種の検査成績の個人差が大きい。
- 身体疾患にうつ症状等の精神・神経症状が伴ったり、途中から加わったりすることが多い。
- 薬剤の反応性が若年者とは異なり、副作用が出やすい。
- 疾患の予後が、医学・生物学的な面とともに、環境・社会的な面によって支配されやすい。
痛み(腹痛)
高齢者の腹痛の原因となるものは、腸閉塞(イレウス)、消化性潰瘍(胃潰瘍や十二指腸潰瘍)、大腸がんなどがあります。
腸閉塞(イレウス)
腸閉塞の原因には、胆嚢炎や胆管炎など胆道感染症による場合や、大腸がんや胃腸疾患が進行して腸管が敗れた場合などの腹腔内の疾患による腸閉塞以外にも、便秘や腹部手術の痕の癒着によるものもあります。
消化性潰瘍
消化性潰瘍とは、胃や十二指腸の内面が胃酸や消化液で侵食されて、円形やだ円形の傷ができた状態をいいます。 消化性潰瘍は、ヘリコバクター・ピロリ感染や、胃や十二指腸の粘膜を衰弱させる薬によって生じることがあり、潰瘍による不快感は生じたり消えたりする傾向があります。
高齢者では、消化性潰瘍による腹痛はあまり強く現れません。一方、手術などのストレスや鎮痛剤のような薬剤による消化性潰瘍は頻度が高く、突然、吐血して発症することがあります。
高齢者の骨折
高齢者の骨折部位の主なものには、大腿骨頸部骨折、脊椎圧迫骨折、橈骨遠位端骨折、上腕骨近位端骨折などがあります。
出典 https://www.kansetsu-itai.com/kossetsu/agmo4/agm001.php
大腿骨頸部骨折
大腿骨頸部骨折は、転倒により起こることが多く、転倒して立ち上がれないときにはこの骨折を疑います。骨が癒合しにくいので、原則として手術をすることで治療します。
動くときにどうしても力が入る部分なので、痛みのせいで身体を動かすのがおっくうになります。高齢者が身体を動かさなくなれば、身体の筋肉が衰えてしまい、寝たきりとなり、さらに褥瘡や肺炎などの合併症などを引き起こす原因となります。つまり、日常生活動作の低下がかなりの確率で起こります。
寝たきりになる可能性の高い骨折であるため、手術をすることで臥床期間の短縮を目指します。
脊椎圧迫骨折
脊椎圧迫骨折は、自分のからだの重みや、転倒、中腰で物を持ち上げたときなどに起こります。腰部の激痛により立ち上がれないこともあり、寝たきりの原因になることが多いです。

うちのおばあちゃんは、ただ寝ていただけで、この骨折が起こりました。
橈骨遠位端骨折
橈骨遠位端骨折(とうこつえんいたんこっせつ)は、橈骨(前腕の長い2本の骨の1つ)の手首付近での骨折です。手をついて転倒したときに起こります。
上腕骨近位端骨折(上腕骨骨折)
転倒して腕から倒れたときに起こります。
変形性関節症
変形性関節症は、老化のため関節の骨や軟骨がすり減り、関節に変形が生じるために起こる痛みのある疾患である。変形性膝関節症、変形性股関節症、肩関節周囲炎(五十肩)などがあります。
変形性膝関節症
変形性膝関節症の原因は、加齢に加えて、膝に負担かかる重労働やスポーツなどの生活習慣、肥満、膝周囲の筋力低下、筋力のアンバランスが大きく関係し、関節表面にある軟骨の水分が減少して、軟骨自体がすり減ることにより症状を起こします。
特徴はとして以下のようなものがあります。
- 中年期以降の女性に多い。
- 年齢とともに急増する。
- O脚変形を起こしやすい。
- 膝の内側に痛みを生じることが多い
生活上の留意点は、正座を避ける、適度な運動をする、膝を冷やさない等膝への負担の軽減が最も重要です。
変形性股関節症
変形性股関節症は軽度の先天性股関節脱臼が年月を経て股関節の変形に至ったものが多いです。
関節リウマチ
京都府立医科大学
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関節リウマチは、何らかの自己免疫システムに異常が生じることにより発症するといわれており、関節の中に滑膜炎が生じ、それに伴い関節の破壊が進みます。
以下のような特徴があります。
- 原因不明の難治性、全身性の炎症性疾患である。
- 多発性の関節の痛み、腫れ、変形、可動域制限を起こす。
- 関節のこわばりは朝方が強く、季節や天候に左右される。
- 手足の小さい関節から左右対称に始まる。
- 進行するとADL(日常生活動作)がほとんど不可能になる。
- 30~50歳代の女性に多く発症する。
生活上の留意点は以下のようなものがあります。
- 安静
- 関節をゆっくり動かし、無理には動かさない
- 関節を冷やさない
- 自助具の使用
- ドアノブを丸型から棒型に変えるなどの家屋改造

関節への負担の軽減がもっとも大切です。
腰部脊柱管狭窄症
出典 https://www.saiseikai.or.jp/medical/disease/spinal_canal_stenosis/
高齢者に多い腰の疾患であり、足の麻痺や排尿・排便障害が起こることもあります。歩行中に足の痛みやしびれが起こり歩けなくなるが、立ち止まったり、座ったりすると、足の痛みやしびれが楽になる間欠性跛行が特徴です。
原因は、椎間板や椎間関節、黄色靭帯の加齢・老化肥大によって生じる脊柱管の狭窄(狭くなること)です。
生活上の留意点に以下のようなものがあります。
- 安静
- 正しい姿勢の指導と保持
- 手押し車や自転車の利用
- 杖を使用する
- 腰まわりの筋肉を鍛える
変形性脊椎症
脊椎の老化現象により起こるもので、椎間板が狭くなったり、椎間関節の軟骨が傷んだり薄くなったりします。症状として坐骨神経痛があり、腰部から大腿、下腿にかけての坐骨神経に沿って激痛発作がみられます。
生活上の留意点は以下のようなものがあります。
- ゆっくりとした動作を行う。
- 動く前にストレッチングを十分にする
- 痛みが出たり強くなったりする姿勢・動作をしない
めまい
メニエール病
耳鳴りや難聴を伴うめまいで有名です。耳鼻科で治療を受ける回転性のめまい疾患の代表格ですが、高齢者では頻度は低いです。
良性発作性頭位めまい症
高齢者の回転性のめまいで、頻度の高い原因疾患の1つです。頭を動かしたときに、自分自身か周囲のものが動いたり回転したりしているかのような感覚が短時間(通常は1分未満)生じます。
動揺感を伴うめまい
動揺感を伴うめまいは、脳動脈硬化が進んだ高齢者によくみられます。数か月以上持続する慢性のめまいとして現れ、脳のCTスキャンで小さな梗塞巣がいくつもみとめられることがあります。脳卒中の発作直後にめまいが出現することもあります。
脱水によるめまい
脱水により血液の粘性が高まり、血流がとどこおることによりめまいが起こることがあります。
立ちくらみや失神を伴うめまい
降圧剤の過量投与による低血圧、心不全による低血圧や不整脈による血流低下、ADL(特に食事摂取後、排泄後、入浴中)に伴う一過性の低血圧によって出現します。転倒・転落事故や骨折に直接つながる可能性があるため、転んでもけがをしないように室内環境を整えることが大切です。

筆者の勤務する施設でも、まとまった量の排便があると、意識消失する方がいました。多量の排便で血圧が下がった時に、ふわぁ~っといってしまう感じでしたね。ただ、ベッドに横になって血圧が安定するとすぐに復活してました。
食欲不振と体重減少
■高齢期における食欲不振の原因の1つとしては、社会・家庭環境の変化があります。
■低栄養がかなり進行した場合の典型的な症状は、浮腫(むくみ)です。足関節や下腿に出現し、ひどくなると背面や上肢にも広がります。
■体重が1か月で数㎏以上も減少した場合、何らかの疾患を疑います。高齢前期であれば悪性腫瘍(がん)の可能性があります。高齢後期では食欲低下が単独で現れることも多く、うつ病やうつ状態、慢性疾患(心不全、呼吸不全、腎不全などの慢性臓器不全)の悪化なども念頭におくべきです。
■食欲不振や体重減少が現れる消化器疾患には、胃潰瘍、胆のうがん、大腸がんがあります。胃潰瘍では、突然、嘔吐したり胃穿孔によってショック状態になったりする場合もあります。
しびれ
しびれの原因として最も頻度の高いのは、加齢そのものによる場合です。高齢者における手足の末梢神経の障害の頻度はきわめて高く、手先の器用さが失われたり、細かい動作が難しくなったりするなど、生活の中での不自由さに直結する可能性があります。
頚椎症
頸椎という骨の変形によって頸椎を通る神経の束である頚髄を圧迫して神経障害を引き起こすもので、両手のしびれから始まります。正確には頚椎症性頚髄症といいます。
腰部脊柱管狭窄症
腰部脊柱管狭窄症では、短距離歩行で下肢にしびれが生じることがあります。
咳・痰
■高齢期にみられる慢性の咳の原因で最も多いのは、閉塞性換気障害です。病名として慢性気管支炎、または肺気腫のことで、この2つのことを特に区別せず慢性閉塞性肺疾患(COPD)といいます。長期間の喫煙などによって、気管支の慢性的炎症や肺胞の破壊が起こり、気管支の狭窄と肺の弾性収縮力が失われることが大きな要因となります。
■今まであまり咳のみられない高齢者に咳が出現した場合は、感染症の可能性があります。長期間、肺の奥で息をひそめていた結核菌が、体力低下に乗じて再び勢いを盛り返す肺結核や、湿気の多い場所に繁殖するレジオネラ菌による肺炎など、注意が必要です。
掻痒感(かゆみ)
掻痒感の原因には、皮膚組織で炎症が起きたり、発疹が現れたりといった皮膚そのものに問題がある場合と、皮膚以外の要因によって皮膚症状が現れる場合とがあります。
皮脂欠乏性皮膚炎
皮脂欠乏性皮膚炎は高齢者の腰臀部(腰からおしり)や下腿(ひざから下)に好発し、冬に悪化するのが特徴です。皮膚は乾燥し、皮膚の表面には細かい糠(ぬか)のようにフケ状の皮膚が剥がれ落ちた状態がみられます。さらに、下腿の前面には亀甲模様の亀裂やシワがみられ、強いかゆみを伴う場合があります。
かゆみによって皮膚を強く引っ掻いてしまい、二次的に湿疹病変が形成され、皮膚が赤くなったりブツブツができて、時間が経つと色素が沈着して黒ずむこともあります。かゆみナビ
老化あるいは、そのほかの原因によって皮膚の機能が低下し、皮脂分泌の低下に伴う皮膚の乾燥が生じることが原因です。特に冬には、石鹸の使用を控え、入浴後の保湿を心がけ、かゆみには抗ヒスタミン薬の内服を行う。また、必要に応じて弱いランクのステロイド外用薬を用いる。

介護の仕事をしている人でしたら、この皮脂欠乏性皮膚炎でぼりぼり掻いてる高齢者を見たことがあるのではないでしょうか。
ただ、保湿、抗ヒスタミン薬の内服等、基本的な対応をしていてもうまくいかない場合も多いですね。特に認知症の場合、掻くことをやめられません。爪をなるべく短く切って、皮膚が傷つかないようにするくらいしかできないですね>,<
接触性皮膚炎
接触性皮膚炎は異物との接触で刺激を受けるために起こる皮膚組織のかぶれです。高齢者の接触性皮膚炎の原因は、湿布や塗り薬、化粧品、おもつ使用者の尿汚染などがあります。原因を取り除き、ステロイド外用薬で治療します。
白癬
真菌(カビ)の一種である白癬菌の感染によっておこります。足白癬は「水虫」、頭皮にできると「しらくも」などと呼ばれます。
白癬菌が体や腕、足などの皮膚に感染した体部白癬(ぜにたむし)は、体や腕、脚などに、かゆみを伴い環状に赤く盛り上がる特徴的な発疹が現れます。
疥癬
疥癬についてはこちらの記事で⇒介護の現場での感染対策「疥癬」
内部疾患によるかゆみ
掻痒感の原因は皮膚の他に、腎不全や肝疾患、胆道疾患、糖尿病等の内部疾患によるものと薬剤による薬疹もあります。
誤嚥
食事中に咳き込んだりむせたりする高齢者では、誤嚥の危険性があるため、口腔ケアを行うことや飲み込みやすいように工夫された食材の調理が必要なります。
誤嚥が原因で起こる肺炎を誤嚥性肺炎といい、口腔内容物が気道に入り、細菌感染などにより炎症が生じます。予防法として口腔ケア、摂食時および食後の体位、食事の工夫などが重要です。
脳血管障害(脳卒中)
脳血管障害は、がん、心疾患と並ぶ三大生活習慣病の1つです。脳血管障害には、頭蓋内出血(脳出血・くも膜下出血)、脳梗塞(脳血栓・脳塞栓)、一過性脳虚血発作等があります。

似たような名前で覚えにくいな・・と思いませんでしたか?
わかりやすく図にしておきます。


ひとつずつ説明していきます。
脳出血
加齢や高血圧などによりもろくなった脳の中の細かい血管が急に破れたときに起こる病気です。活動中に発症することが多く、意識障害が多く認められ、急速に昏睡に陥ることもあります。
くも膜下出血
脳の表面の大きな血管にできたコブ(脳動脈瘤)の破裂で起こり、激烈な頭痛・嘔気・嘔吐、一過性の意識障害があります。死亡率が高い。
脳血栓症
脳の動脈硬化が進行すると、血管が狭くなります。 すると血液がスムーズに流れなくなり停滞するため固まりやすくなります。 そこで出来た血栓が脳内の動脈をふさぎ、そこから先の脳組織に血液が届かなくなる状態です。休息時に起こることが多く、徐々に症状が進行します。
脳塞栓症
不整脈、心臓弁膜症、心筋梗塞などにより、局所に血栓(血液のかたまり)ができ、それが脳まで達して血管をふさいでしまった状態で、そこから先の脳組織に血液が届かなくなるために、突然神経症状が起こります。
一過性脳虚血発作
血栓が詰まることなどで生じるので、症状は脳梗塞と同様であるが、一度現れた症状が消えるのが特徴である。発作を繰り返す場合は脳梗塞を発症しやすい。
食生活が豊かになり、栄養状態がよくなった結果、糖尿病や脂質異常症の患者が著しく増加し、動脈硬化から脳梗塞になる症例が増加しています。
脳血管障害の危険因子として、高血圧、糖尿病、脂質異常症、喫煙があります。これらの治療により、脳血管障害を予防することができます。また、脳塞栓では、心臓にできた血栓を溶かす薬を予防的に使う方法もあります。
脂質異常症(高脂血症)
血液中のコレステロールや中性脂肪などの脂質が異常値を示す病気です。自覚症状がほとんどなく、放置すると血管の壁に血液中のコレステロールが付着して動脈硬化が進行し、心筋梗塞や脳梗塞などを起こしやすくなる。
高血圧
高血圧の定義
WHO(世界保健機関)や日本高血圧学会のガイドラインで外来随時血圧(診察室で測る血圧)が収縮期血圧(最高血圧)140㎜Hg / 拡張期血圧(最低血圧)90㎜Hg以上と定義されています。
老人性高血圧
老人性高血圧は、収縮期血圧は高いが拡張期血圧は高くないといった収縮期高血圧症が多い。加齢による高血圧は、原因を明らかにできないものが多い。
高血圧に対する非薬物療法
食塩(ナトリウム)摂取の制限、カリウム(K)を摂取すること、脂肪摂取の制限、適度な運動、肥満者の減量などがあります。

カリウムには体内の余分な塩分を排出して、血圧を抑える効果があるのです。カリウムは新鮮な野菜や果物に多く含まれています。
糖尿病
糖尿病とは、さまざまな原因によるインスリンの分泌不足、またはインスリンの作用が十分に発揮されないために、高血糖が持続することを主因とする疾患です。初期には自覚症状のないことが多い。高血糖による症状としては、次のようなものがあります。
- 口渇
- 多飲
- 多尿
- 夜間頻尿
- 倦怠感
- 体重減少
- 化膿を起こしやすく、皮膚感染症がよくみられる
糖尿病は、中高年に多く、食事や運動などの生活習慣が関係する2型糖尿病と、若い人に多く、生活習慣とは関係せず、インスリンの分泌がなくなる1型糖尿病があります。
糖尿病の三大合併症
- 糖尿病網膜症
網膜にある多数の毛細血管が障害されます。出血により失明する場合もあります。 - 糖尿病腎症
腎臓にある毛細血管の集合体である糸球体が障害され、腎臓の働きが低下します。 浮腫やたんぱく尿の症状がみられ、病状が進行すると透析が必要となります。 - 糖尿病神経障害
感覚神経や自立神経に障害が起こる危険性があります。感覚神経が障害されると、手足にしびれや違和感などがあらわれます。悪化すると、痛みや温度といった感覚がなくなってしまいます。その結果、ケガ等に気づかず患部が壊疽を起こしてしまう可能性があります。
自立神経が障害されると、立ちくらみや発汗異常、食欲不振などの症状があらわれることがあります。
高齢者の糖尿病の特徴
- 口渇、多尿、全身倦怠感などの症状が出にくい。
- 低血糖時に冷汗、動悸、手の震えなどの典型的な症状が生じることが少なく、ふらふら感、めまい、目がかすむなどの症状が出ることがある。
糖尿病の治療
食事療法、運動療法、薬物療法があります。食事療法と運動療法で改善しない場合は、薬物療法が行われます。治療中に注意するものに低血糖症状(冷汗、動悸、手足のふるえ、昏睡)があり、その場合、糖分を摂取します。
心房細動(不整脈)
心房細動は加齢とともに増加し、 頻脈になることが多い不整脈の状態です。 男性に多く、高血圧などの心疾患があると発生しやいです。心臓に血栓ができやすく、血栓が心臓壁からはがれると動脈で運ばれ、脳の血管に詰まって脳塞栓となります。
虚血性心疾患
心臓は心臓表面にある冠動脈から酸素やエネルギーを受け取り、動いています。
しかし、年をとるにつれ、この冠動脈の血管壁にコレステロールがたまり、動脈硬化が進むと、血管の内側が狭くなっていきます。その結果、血流が滞るようになっていきます。
これによって血流が不十分になってしまうと、心臓を動かす血液が不足する「心筋虚血」という状態になってしまいます。
このような状態になると、胸痛か胸の圧迫感を感じるようになります。これが狭心症です。ただし、この症状は長くても15分以内に消えてしまいます。
冠動脈がさらに狭くなり、「完全にふさがって血液が通じない」状態になると、この部分の心筋細胞が壊死してしまいます。そして、狭心症と同じような症状も長く続くことになります。この状態が急性心筋梗塞です。
虚血性心疾患というのは、この狭心症と心筋梗塞をまとめた呼び名です。
狭心症
胸痛、腹部圧迫感、締め付けられるような痛み等の症状があります。運動などの労作によって起こる労作性狭心症と安静時に起こる安静狭心症があります。狭心症の危険因子として虚血性心疾患の家族歴や既往歴のほかに、喫煙、脂質異常症、高血圧、糖尿病、肥満があげられます。狭心症の一般療法は、これらの危険因子の除去ないしコントロールすることです。
労作性狭心症の発作は、ニトログリセリンに舌下投与で数分以内に消失します。安静狭心症の大部分は、主に夜間や早朝に胸痛が起こります。
心筋梗塞
安静やニトログリセリンの舌下投与でも軽快しない、突発的な20分以上持続する胸痛があり、不整脈やショック等のため死亡率が高い。胸痛にはモルヒネが用いられる。治療法の1つに冠状動脈バイパス術がある。高齢者では、痛みを伴わない無痛性心筋梗塞も少なくない。
消化器系疾患
胃・十二指腸潰瘍
胃・十二指腸潰瘍は、胃液の消化作用による消化性潰瘍です。胃酸(塩酸)が胃壁や十二指腸壁を消化し、粘膜組織や筋層などを傷つけることによって生じます。近年、ヘリコバクター・ピロリ菌の感染関与が注目されています。
ウィルス肝炎
ウイルス肝炎には、ウイルス感染後に生じる急性肝炎と、ウイルス肝炎が持続することによる慢性肝炎があります。急性肝炎の原因となるウイルスは、日本ではA型、B型、C型がほとんどです。高齢者では、A型肝炎やB型肝炎の発生頻度は高くなく、C型肝炎は、手術などで輸血の機会が増すため、高齢者でも多い。
B型肝炎ウイルスの保菌者(キャリア)の多くは30歳頃までに発症するため、高齢者の慢性肝炎はほとんどC型と考えることができます。20~30年以上を経て、肝硬変や肝がんを発症する可能性があります。日本における肝硬変の原因としては、C型肝炎が最も多い。
C型肝炎ウイルスの感染経路は、以下のようなものが考えられます。
- 輸血
- 血液製剤
- 透析
- 針刺し事故
- 刺青
- 針治療
A型肝炎 | B型肝炎 | C型肝炎 | |
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感染経路 | 経口 | 血液 | 血液 |
経過 | 慢性化しない | まれに慢性化する | 多くは慢性化する |
C型肝炎ウイルスの感染の多くは、無症状で経過(不顕性感染)し、健康診断などで初めて肝機能の異常を指摘されることがあります。慢性肝炎が20年程度経て、肝硬変になることもあります。
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