高齢者虐待とは
高齢者虐待防止法において、高齢者虐待は、身体的虐待、心理的虐待、性的虐待、経済的虐待、ネグレクト(介護・養護の放棄)に区分されています。
- 身体的虐待
暴力や体罰によって、身体に傷やあざ、痛みを与える行為。身体を縛ったり、過剰な投薬によって身体の動きを抑制する行為。
例)殴る、蹴る、つねる 、無理やり食べ物を口に入れる 、ベッドに縛り付ける - 心理的虐待
脅し、侮辱などの言葉や態度、無視、嫌がらせなどによって精神的に苦痛を与えること。
例)侮辱する言葉を浴びせる、怒鳴る、仲間に入れない、子ども扱いする、意図的に無視する等 - 性的虐待
本人が同意していない性的な行為やその強要。
例)性的行為を強要する、わいせつな言葉を言う、裸にする、キスする 等 - 経済的虐待
本人の同意なしに財産や年金、賃金を搾取したり、本人が希望する金銭の使用を理由なく制限すること。
例)年金や賃金を搾取する、本人の同意なしに財産や預貯金を勝手に使用する、日常生活に必要な金銭を渡さない等 - 放棄・放任(ネグレクト)
食事や排泄など身近の世話や介助をしないなどによって、生活環境や身体・精神的状態を悪化させること。
例)入浴をさせないなど、衛生状態を悪化させる、必要な医療、福祉サービスを受けさせない等
高齢者の生命または身体に重大な危険が生じている場合、発見者は市町村への通報義務があります。通報義務は、他の法律などで定められている守秘義務より優先される。
データでみる高齢者虐待
2022年の「高齢者虐待の防止、高齢者の養護者に対する支援等に関する法律に基づく対応状況等に関する調査結果」から、介護福祉国家試験に出題されそうなポイントを見ていきます。
被虐待高齢者から見た虐待者の続柄
- 息子(39.0%)
- 夫(22.7%)
- 娘(19.3%)
虐待を受ける高齢者の性別
男性:24.2% 女性75.8%(擁護者からの虐待の場合)
男性:28.3% 女性:71.7%(介護施設職員による虐待の場合)
どちらにしても女性の方が虐待を受けている確率が高いです。
相談・通報者(複数回答可)
擁護者からの虐待の場合(相談・通報者40678人のうち)
- 警察(34.0%)
- 介護支援専門員(25.0%)
- 家族・親族(7.5%)
介護施設職員からの虐待の場合(相談・通報者3166人のうち)
- 当該施設職員(27.6%)
- 当該施設管理者等(15.9%)
被虐待高齢者における虐待者との同居・別居の状況
- 虐待者のみと同居(52.8%)
- 虐待者及び他家族と同居(34.0%)
虐待を受けている高齢者の86.8%が虐待者と同居しているという事実がみえます。
被虐待高齢者の家族形態※2021年のデータより
- 未婚の子と同居(35.7%)
※未婚の子は配偶者がいたことのない子を指します。 - 夫婦のみ世帯(22.6%)
- 配偶者と離別・死別した子と同居(12.9%)
虐待の種別(複数回答可)
要介護施設従事者等による虐待の場合(被虐待高齢者1406人のうち)※複数回答
- 身体的虐待(57.6%)
- 心理的虐待(33.0%)
- 介護放棄(23.2%)
擁護者による虐待の場合(被虐待高齢者17091人のうち)※複数回答可
- 身体的虐待(65.3%)
- 心理的虐待(39.0%)
- 介護等放棄(19.7%)
- 経済的虐待(14.9%)
身体的虐待が圧倒的に多く、どちらの場合も順位は変わらずです。
虐待の発生要因(複数回答可)
養介護施設従事者等による虐待の場合
- 教育・知識・介護技術等に関する問題(56.1%)
- 職員のストレスや感情コントロールの問題(23.0%)
- 虐待を助長する組織風土や職員間の関係の悪さ、管理体制等(22.5%)
養護者による虐待の場合
- 被虐待者の認知症の症状(56.6%)
- 虐待者の介護疲れ・介護ストレス(54.2%)
- 理解力の不足や低下(47.9%)
- 精神状態が安定していない(47.0%)
虐待ととらえられることも多く、弊害も多い身体拘束についても解説しておきます。
身体拘束
身体拘束は、行動制限やけがによる身体的弊害や精神的弊害など、大きな事故につながる危険性が高いと考えられています。行動制限をする前に、なぜ転倒しそうになるのか等、心身の状況から分析し、事故に結びつく要因を探り対応していくことが大切です。
身体拘束がもたらす多くの弊害
身体的弊害
①本人の関節の拘縮、筋力の低下といった身体機能の低下や圧迫部位の褥瘡の発生などの外的弊害をもたらします。
②食欲の低下、心肺機能や感染症への抵抗力の低下などの内的弊害をもたらします。
③車いすに拘束しているケースでは無理な立ち上がりによる転倒事故、ベッド柵のケースでは乗り越えによる転落事故、さらには拘束具による窒息等の大事故を発生させる危険性もあります。
出典 厚生労働省「身体拘束ゼロへの手引き」
精神的弊害
①本人に不安や怒り、屈辱、あきらめといった多大な精神的苦痛を与えるばかりか人間としての尊厳をも侵します。
②身体拘束によって、さらに認知症が進行し、せん妄の頻発をもたらすおそれがあります。
③家族にも大きな精神的苦痛を与えます。自らの親や配偶者が拘束されている姿を見たとき、混乱し、後悔し、そして罪悪感にさいなまれる家族は多い。
④看護・介護するスタッフも、自らが行うケアに対して誇りを持てなくなり、安易な拘束が士気の低下を招きます。
出典 厚生労働省「身体拘束ゼロへの手引き」
②の認知症が進行するというのは実感としてあります。骨折で入院していた利用者がやむなく身体拘束状態だったのですが、施設に戻ってきたときは一気に認知症が進み、別人のようでした。
社会的弊害
①看護・介護スタッフ自身の士気の低下を招きます。
②介護保険施設等に対する社会的不信、偏見を引き起こします。
③高齢者のQOLを低下させ、さらなる医療的処置を生じさせ、経済的にも少なからぬ影響をもたらします。
出典 厚生労働省「身体拘束ゼロへの手引き」
身体拘束等の適正化
特養などの施設サービスや介護付き有料老人ホームなどの特定施設、またショートステイや小規模多機能型居宅介護などの介護サービス事業者に対して、身体的拘束等の適正化を図る観点から、以下のような内容が義務付けられています。
- 身体的拘束等の適正化のための対策を検討する委員会を3ヵ月に1回以上開催するとともに、その結果について、介護職員その他従業者に周知徹底を図ること。
- 身体的拘束等の適正化のための指針を整備すること。
- 介護職員その他の従業者に対し、身体的拘束等の適正化のための研修を定期的に実施すること。
身体的拘束等を行う場合には、その態様及び時間、その際の利用者の心身の状況並びに緊急やむを得ない理由を記録することを義務付けられています。
身体拘束は、緊急やむを得ない場合の要件として、①切迫性、②非代替性、③一時性の3つの要件を全て満たした場合をあげています。
お疲れ様です。「介護の基本」3/13読破です。
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