介護の社会化とは|背景や具体的な要因を説明

Photo by Abigail Keenan on Unsplash 介護の基本

介護の社会化とは|どのような背景があるのか

そもそも介護の社会化って?

介護の負担を個人や家族で抱え込むのではなく、専門的な介護サービスを皆の負担で(税や保険料で)確保していこうとする考え方。

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家族や友人に介護を必要とする人がいる方でしたら、この考え方に反対する人はほとんどいないでしょう。逆に介護の問題とかかわりのない生活を送っている方でしたら、自分が納めた税金でなぜ他の家族を支援しないといけないのか、と思う人もいるかもしれません。

しかし、現状ではこの考え方は世の中に受け入れられ、まさにこの考え方を体現している「介護保険法」が成立し、運用されています。

介護の社会化が受け入れられている背景にはどのような理由があるのでしょうか。細かい要因はさまざまあると思いますが、最も大きな理由は次の二つです。

  • 家族形態の変化
  • 地域コミュニティの変化

介護の社会化と家族形態の変化

家族形態の変化がなぜ大きな要因に? もう少し具体的に…!

サザエさん一家のような大人数の家族と夫婦と子ども一人の家族の場合を考えてみてください。身内の一人に介護が必要になったとき、対応しやすいのはどちらでしょうか。明らかに同居している人数が多いほうが、対応しやすいですよね。しかし、現代は家族の小規模化がすすみ、三世代で同居している世帯はわずか5.1%(2019年)です。

高齢になり、両親とも介護が必要になった場合、子どもひとりで対応することは精神的にも肉体的にも負担が大き過ぎます。そこで 国民に共通する介護のリスクを社会全体で分担し、必要なときに十分な介護サービスを利用できる社会の仕組みを作っていこうという流れになりました。

家族が小規模化しているという具体的なデータはあるのですか?

2022年の世帯構造

家族形態の変化は厚生労働省が実施している国民生活基礎調査を見るとよくわかります。ちなみに介護福祉士国家試験では「国民生活基礎調査によると~」という感じで設問にこのデータがよく使われています。

2022年 国民生活基礎調査

2022年の世帯構造を多い順に並べると、

  1. 単独世帯(32.9%)
  2. 夫婦と未婚の子のみの世帯(25.8%)
  3. 夫婦のみの世帯(24.5%)

そして最下位が、

  • 三世代世帯(3.8%)

1986年では三世代世帯は15.3%でしたが、年々減少しています。逆に単独世帯夫婦のみの世帯は年々増加しています。

このデータから家族の小規模化がみてとれます。

介護の社会化と地域コミュニティの変化

地域コミュニティって?ご近所づきあいのような?

ご近所づきあいも地域コミュニティの一つです。他にも町内会や自治会などさまざまなものがあります。しかし、この記事を読んでいる方で町内会や自治会に所属してる方はどのくらいいるでしょうか?

次のグラフをみてください。

自治体加入率の推移

2015(平成 27)年東京の自治のあり方研究会

年々町内会や自治会の加入率は低下しています。マンションなどでは隣人と交流はなく、どういう家族でどんな仕事をしているかもわからない、ということは珍しくありません。

例えば、認知症状がある方が外出して迷子になってしまった場合、自治会や町内会が活発で、近所の人はだいたい顔見知りという状況であれば、転倒して搬送されたりする前に保護できる可能性も高くなりますが、地域コミュニティが縮小化、希薄化している状況ではむずかしいでしょう。

このような地域のつながりの低下も介護の社会化の要因と言えます。

しかし、一方でNPO法人や企業など、新たな地域コミュニティの担い手もでてきています。国がすすめている”地域包括ケアシステム”の構築においてもNPO法人や地域のコミュニティは重要視されています。

地域包括ケアシステムについてもここで説明しておきます。

地域包括ケアシステムとは

環境の変化がストレスになる高齢者の中には、可能な限り住み慣れた地域や自宅で日常生活を送ることを望む人が多いと思われます。また、地域内で介護が必要な高齢者を効率良くサポートするためには、家族のメンバーや地域の医療機関、介護の人材が連携し合い、状況に応じて助け合う必要があります。
そこで、地域における「住まい」「医療」「介護」「予防」「生活支援」の5つのサービスを一体的に提供できるケア体制を構築しようというのが、地域包括ケアシステムです。

一体的なサービスのイメージは、例えば、自宅で一人暮らしをしている糖尿病の高齢者がいるとします。日常生活で、ひとりではできないことを訪問介護員が支援しています。訪問介護員が利用者の体調の変化に気づいた場合、「病院でみてもらったほうがいいですよ」で終わるのではなく、連携している訪問看護事業所やかかりつけ医に情報を伝え、訪問看護や訪問診療につなぎます。そして、利用者の体調不良の原因や日常生活で気を付けるべきことなどを医療職から介護職へフィードバックしてもらい、日常のケアにつなげる、といったかんじです。

地域包括ケアシステムは全国一律ではなく、各地域で高齢化がピークに達するときを想定し、地域の実情や特性に合った体制を整えていくものです。ここでいう「地域」とは日常生活圏域を指し、おおむね30分以内に駆けつけられる場所を想定しています。具体的には中学校区を基本とします。高齢者の住居が自宅であるか施設であるかを問わず、健康に関わる安心・安全なサービスを24時間毎日利用できることが目的です。

また、地域包括ケアシステムの「住まい」「医療」「介護」「予防」「生活支援」といった構成要素には含まれないものの、地域包括ケアシステムを支えていく重要な要素として本人や家族の選択と心構えがあります。単身・高齢者のみの世帯が主流になる中で、在宅生活を選択することの意味を、本人とその家族が理解し、心構えを持つことが重要です。

地域包括ケアシステムの構成要素

地域包括ケアシステムの構成要素について、厚生労働省のは以下のように説明しています。

住まいと住まい方

生活の基盤として必要な住まいがきちんと整備され、本人の希望と経済力に沿った住まい方が確保されていることが地域包括ケアシステムの前提です。周囲のサポートは必要ですが、それと同時に高齢者のプライバシーや人間としての尊厳が十分に守られた住環境を実現する必要があります。

出典  平成25年 地域包括ケア研究会報告書

生活支援・福祉サービス

心身の能力の低下、経済的理由、家族関係の変化などの要因があっても、尊厳ある生活を継続できるように生活支援を行います。
生活支援の中には、食事の準備など、サービス化できる支援から、近隣住民の声かけや見守りなどのインフォーマルな支援まで幅広く存在し、担い手も多様です。生活困窮者などには、福祉サービスとしての提供も。

出典  平成25年 地域包括ケア研究会報告書

介護・医療・予防

個々人の抱える課題に合わせて「介護・リハビリテーション」「医療・看護」「保健・予防」が専門職によって提供される(有機的に連携し、一体的に提供)。ケアマネジメントに基づき、必要に応じて生活支援と一体的に提供する。

出典  平成25年 地域包括ケア研究会報告書

本人・家族の選択と心構え

構成要素には含まれないものの、地域包括ケアシステムを支えていく重要な要素として触れておく必要がある部分です。単身・高齢者のみ世帯が主流になる中で、在宅生活を選択することの意味を、本人とその家族が理解し、心構えを持つことが重要です。

出典  平成25年 地域包括ケア研究会報告書

自助・互助・共助・公助から見た地域包括ケアシステム

まず基礎となるのは自助です自分で自分を助けること。自分の力で住み慣れた地域で暮らすために、市場サービスを自ら購入したり、自らの健康に注意を払い介護予防活動に取り組んだりすることです。
とはいえ、年老いて身体が思うように動かなくなっていく高齢期に、自分ひとりだけで何とかするのどうしても限界があります。

そこで自助を支えるために互助があります。家族・友人・サークル活動仲間など、個人的な関係性を持つ人間同士が助け合い、それぞれが抱える生活課題をお互いが解決し合うことです。 
「互助」で支え合う事は、支えてもらう側と支える側の力のバランスが重要です。漢字の人という字で人はお互いに支え合い、助け合っているんだ、という話がありますが、冷静によく見てください。どうみても右の線の方が大変です。こうなってしまったらもうだめです。互助の関係性が維持できません。


そこで、必要に応じて自身の「権利」として利用ができる共助が登場します。制度化された相互扶助のことで、医療保険、年金保険、介護保険、など被保険者による相互の負担で成り立ちます。
「自助・互助・共助」で支え合っていても、どうしても解決が出来ない課題には、最終的に公助で対応します。生活保護や虐待対策などで、公による負担つまり税の負担で成り立ちます。

この地域包括ケアシステムを実現していくための手法のひとつに地域ケア会議というものがあります。

地域ケア会議

地域包括支援センターまたは市区町村が主催します。

地域ケア会議の開催日程に決まりはなく、地域の判断によります。
定例で開催している地域もあれば、解決が必要な課題があれば随時開催するという地域もあります。

「行政職員をはじめ、地域の関係者から構成される会議体」

と定義されており、地域の医療・介護に関わる多職種が参加します。

参加者がそれぞれの専門的知見を共有しながら、よりよい支援内容について検討し、また地域の課題を明らかにしていくことで、地域包括ケアシステムの整備・推進につなげていきます。

会議の目的の一つは、高齢者の個別ケースの支援内容を検討することです。

例えば、

  • 認知症があり、悪意なくコンビニで万引きを繰り返している高齢者の支援内容の検討
  • ゴミ屋敷のようになっているのに、どうしても家から出たくない高齢者の支援内容の検討

などです。

多角的な視点で検討するために、会議の構成員は、自治体職員、包括職員、ケアマネージャー、介護事業者、民生委員、医師、歯科医師、薬剤師、看護師、管理栄養士、弁護士などさまざまです。地域包括支援センターが呼びかけて、参加お願いしたりします。

この個別ケースの検討のための地域ケア会議には、支援困難事例などに関する相談や助言を与える個別課題解決機能と、参加者をつなぎ、連携協働情報共有を行うためのネットワーク構築機能があります。

また、個別ケースの課題分析を積み重ね、他の日常生活圏域とも意見交換しながら調整し、地域に共通した課題を明確化し、地域づくり資源開発につなげます。資源というのは、例えばインフォーマルサービスや地域の見守りネットワークなどが挙げられます。

明らかになった地域課題に対して、市町村レベルの規模の大きな地域ケア会議を実施して、利用可能な地域資源などを検討し、政策形成を行っていきます。規模の大きな地域ケア会議の場合は、市区町村(保険者)が主催者になることが多いです。

こういった地域課題の検討による施策が、個別支援に還元されていきます。
また新たな課題の発見にもつながり、各機能が循環していくという流れです。

地域ケア会議の機能をまとめると以下になります。

出典 スポットライト

お疲れ様です。「介護の基本」1/13読破です。
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