- 「人間関係とコミュニケーション」「コミュニケーション技術」という2科目について
- 介護におけるコミュニケーションの意義や目的
- 人間関係とコミュニケーションに関する用語まとめ
- 介護の場面で使えるカウンセリング技法
- バイステックの7原則
「人間関係とコミュニケーション」「コミュニケーション技術」という2科目について
介護福祉士国家試験では援助の入り口となる、利用者とのコミュニケーションについて学習する科目が二つあります。一つは「人間関係とコミュニケーション」で、もう一つは「コミュニケーション技術」です。この2科目はセットになっており、どちらかの科目で得点があれば、足切りの心配はありません。詳しくは「人間の尊厳と自立」で解説しているので、気になる方は確認してみてください。
また、この2科目は重複している部分も多く、境界もそれほど明確ではないので、この記事で2科目まとめて解説しています。
介護におけるコミュニケーションの意義や目的
双方向性
コミュニケーションは一方通行ではなく双方向に行き交うものです。介護関係においても、介護福祉職と利用者の一方的でない意思の交流と、互いの主体的な参加が重要視されています。
関係づくり
コミュニケーション自体が人と人との全人的なかかわりを意味するものであり、まずは相手との関係づくりが大切である。
※ 全人的:人間を、身体・心理・社会的立場などあらゆる角度から判断すること
コミュニケーションに関する重要な用語を一つずつ説明していきます。
人間関係とコミュニケーションに関する用語まとめ
自己開示
自分自身に関する情報を、自分の意思により、強制されることなく、他者に話し、伝えることです。
初対面の相手と趣味の話題になったとき、「すみません、プライベートな話はちょっと……」という感じだと、拒絶されたような、悲しい気持ちになると思います。したがって、自己開示しない人は、相手となかなか打ち解けられず、いつまでもギクシャクした関係のままです。
反対に、初対面の相手が「私、実はプロレスを見るのが大好きなんです」「実は、すごく方向音痴なんです」とか、自分の情報をさらけ出してくれると、“心の壁” が取り除かれ、安心感が生まれます。
積極的に自己開示をすると、自分がどんな人間かを相手に理解してもらえるので、好感や信頼感をもってもらえます。
ただし、初対面の人にひたすら自分のことを話まくると逆に警戒感などを持たれることもあるので、相手との関係性に応じて徐々に自己開示していくことが大事です。
自己覚知
自己覚知とは自分の思想や価値観、感情などについて、客観的に理解することを言います。援助者が自分の価値観や感情などに左右されると、誤った支援をしてしまうこともあるため、自己覚知が必要になります。
介護の仕事をしていてイライラしたことはない、という人はほぼ皆無だと思います。どういう状況で自分はイライラしやすいか、介護職としてのプロ意識は持てているか等、自己覚知をしっかり行うことで、自身の感情をコントロールし適切な支援を行うことができます。
共感
共感とは相手の感情をその人の立場になって理解し、その感情に寄り添うことです。「気持ちをわかってもらえた」と相手に思われるような共感的態度が大切です。
また、共感は介護福祉職にとって欠かせない価値観や態度です。それと同時に、利用者の視点で見た思い、感じ方および考え方を理解し、それらを利用者自身に応答として伝える技法でもあります。
同情
同情は自分の価値観や見方から推測した相手の気持ちで合って、自分視点です。これに対し、共感は、積極的に相手の感情や思いを共有するものです。
受容
受容とは相手をあるがままに受け容れることであり、先入観、印象に基づく判断や感情的なこだわりをもたないように努めなければなりません。援助者が一方的に支持したり、アドバイスしたりすると、相手と対等な立場で受容しあうことが難しくなります。 受容は介護職が身に付けなければならない、最も重要なコミュニケーション技術です。
筆者の勤務する施設では強い妄想がでてくる利用者が数人います。
夜中に窓から入ってきた女にめつぶしされたのよ・・!
それは大変でしたね。目に痛みはありますか?
このように、利用者の言い分をそのまま受け止めるのですが、なかにはイライラする発言もあります。しっかり自分の感情をコントロールして受容するにはある程度訓練が必要です。
ラポール
ラポールとは互いに信頼し合い、心理的距離が縮まり、感情の交流を行うことができる状態をいいます。ラポールを形成するために共感と受容の態度で接することが大切です。
言語的チャンネルと非言語的チャンネル
言語的チャンネル
言語的チャンネルは、話し言葉や書き言葉などのことばによる、メッセージの伝達経路です 。普通の会話とか手紙とか、手話も言語的チャンネルです。
非言語的チャンネル
ジェスチャー、姿勢、声のトーン、表情などの言語を介さないメッセージの伝達経路です。
メッセージを伝える伝達経路(チャンネル)は言語的チャンネルが全体の2~3割であるのに対して、非言語的チャンネルは7~8割を占めています。
顔の表情やスキンシップといった非言語的な行動は無意識のうちに表れるものが多いため、自分自身が気づかないうちに、相手になんらかのメッセージを伝えています。介護福祉職のこれらの行動は利用者とのコミュニケーションにおいて重要な部分を占めています。
ユニバーサルデザイン
障害のある人もない人もすべての人に公平で使いやすいデザイン。パソコンや携帯電話などの普及は視覚障害のある人や、移動に不自由がある身体障害のある人のコミュニケーションの手段として大きな役割を果たしています。
ユニバーサルデザインの7原則
- 公平性
だれでも公平に利用できる。
(例)自動ドア
自動ドアは、車いすでも、手が不自由でも利用する人が公平に同じように使うことができます。 - 自由度
柔軟に使用できることです。
(例)左右どちらの手でも使えるハサミ - 単純性
使い方が簡単で、直感的にわかることです。
(例)シャンプーとリンスを区別するためのシャンプーボトルの凹凸
シャンプーとリンスのボトルは同じブランドなら、基本的に同じデザインですが、触るとシャンプーの方にでこぼこがついています。家にあるのを触ってみてください。 - 分かりやすさ
使用状況や、使う人の視覚、聴覚などの感覚能力に関係なく、必要な情報が効果的に伝わるように作られていることです。
(例)電車の扉の上に設置されているパネル
目が見えない人にはアナウンスで、耳が聞こえない人にはパネルの画像で、次の駅等の情報を伝えることができます。 - 安全性
うっかりミスや危険につながらないデザインであることです。
(例)エレベーターでドアの所に立っていると扉が閉まらない仕様 - 身体への負担の少なさ
無理な姿勢や、強い力を必要とせず、楽に使用できることです
(例)商品を取り出しやすい自動販売機や、レバーハンドル式のドアノブなどです。 - アクセスしやすいスペースと大きさの確保
どんな体格や、姿勢、移動能力の人にも、アクセスしやすく、操作がしやすいスペースや大きさにすることです。
(例)多目的トイレ、ボタンの大きなリモコンなどです。
共体験
コミュニケーションの基本は、一緒に調理したりするなどの共体験です。何を作るか、どんな味にするか等のコミュニケーションの必然性が生じ、共体験終了後もそのことを話題に話が弾んだりします。
難しく書きましたが、一緒にごはんを作ったり、掃除をしたりすれば会話も弾むね!という感じです。
傾聴
傾聴は相手の話を受身的に聞くのではなく、その話に伴う相手の感情をも理解しようとする聴き方で、相手の言葉を妨げないでじっくり聴くことが大切です。また、 利用者の主観的な訴えに耳を傾けることも重要です。 時々うなずき、あいづちを打ちながら話を聴くと、傾聴していることが伝わりやすいです。ゆっくりと丁寧にうなずくと、落ち着いた印象を表現することができます。
傾聴スキルは妄想が強くでている利用者に対しても非常に効果的で、「傾聴」からの「感情の反射」で落ち着いてくれることが多いです。
明確化
明確化とは相手の話す内容が具体的でなく、まとまりがつかない場合に、「確かなことかどうか」尋ねる技法です。質問の形式をとることが多いですが、介護福祉職が別の言葉や表現で言い直すこともあります。
わかりやすい例があったので引用させてもらいました。
問題の明確化の例を挙げます。
部下のDさんが、上司のCさんに相談を持ちかけています。アンダーラインの箇所が明確化を意識して行っているところです。Dさん:「Kさんから引き継いだG社のお客様とうまくいかないんです」
Cさん:「詳しく話してもらえるかい?」Dさん:「先日、来年度の新商品について3回目の打ち合わせをしたのですが、 私がご提案した広告のことで、お客様からお電話がありまして・・・」
Cさん:「うん、それで?」Dさん:「はい。お客様から一度OKをいただいた内容だったので、そのまま印刷の手続きを進めていたのですが、“やり直してほしい”と言われたんですよ」
東京カウンセリングセンター
Cさん:「お客様から一度OKもらってから印刷の手続きを進めていたのに、やり直してほしいと?」
Dさん:「そうなんです。もう印刷は進めていたところだったんですよ。でも、こういうのって今に始まったことではないんです」
Cさん:「え?、今回に始まったことじゃないって、これまでも?」
Dさん:「はい。一度OKもらってからやり直しって、実は先月もあったんです」
Cさん:「どういうことがあったのか、話してくれる?」
以下、省略。
対面法と直角法
利用者との関係を作る座り方として
対面法はお互いの顔が見える真正面に座るもので、相手から視線をそらしにくくなり、比較的緊張感があります。直角法は相手の斜め45度の位置に座ることで、視線を合わせたり自然にそらしたり、自然なアイコンタクトが可能になり、よりリラックスした雰囲気を作ることができます。
対面法で座る場合には、視線を向けることのできる花瓶などを机に置くとよい。
閉じられた質問と開かれた質問
閉じられた質問
「はい」「いいえ」で答えられる質問、および簡単に2~3の単語で短く答えられる質問です。会話が苦手・困難な人に有効で、簡単な世間話ができ、互いの緊張をほぐせます。
例)寒いですか? お子さんは何人?
開かれた質問
相手に自由な発言を認め、相手が自分自身の選択や決定による答えを見つけることを促す質問です。思考や会話が深まります。
例)今日の夕食はどうしましょう? あのおじいさんをどう思いますか?
■「なぜ?」「どうして?」という質問は、相手を身構えさせてしまい、質問者の意向にそうような答えを探させてしまうことがあります。対人援助の場では、他の質問の方法を用いることが適切です。
■相手の言葉が出にくい時は、さまざまな理由が考えられます。緊張している場合や、話すことを整理している場合などは、次々と話しかけるより、相手の言葉を黙って待つことが大切です。
閉じられた質問で簡単な会話をし、緊張をほぐしてから、深く知りたい部分に開かれた質問を使うなど、適切に組み合わせることが大切です。
アサーティブ・コミュニケーション
相手の気持ちや立場を尊重し、異なる意見を受け止めながらも、自分自身の気持ち・意見・主張についても正確に、率直に伝えるコミュニケーション方法です。
その場にあった言葉遣いや適切な表現を選択して話すため、相手を傷つけることなく、意見が対立している人とも建設的な議論が可能で、お互いに納得できる結論や解決策を導き出すことができます。
ノン・アサーティブ・コミュニケーション
自分の考えや気持ちを言わずに黙って我慢したり相手の言いなりになったりして、相手を優先しようとするコミュニケーションの方法です。
無理のある意見・主張や難しい依頼であっても受け入れてしまうので、不満やストレスを溜め込み、間違った判断や指示に従ってしまう危険性があります。
アグレッシブ・コミュニケーション
自分の考えや気持ちを一方的に主張したり、相手に対して威嚇的な態度をとったりして、自分を優先しようとするコミュニケーションの方法です。
反論を許さないため、相手に委縮・警戒させ、受け身の態度を取らせてしまいます。良好な関係を構築することは難しく、ハラスメントにつながる危険性も大きい。
ソーシャル・サポート
ソーシャル・サポートは、その人を取り巻く、家族、友人、同僚などから得られる精神的あるいは物質的な支援のことです。この支援をうけることで、強いストレスが及ぼす悪影響を緩和したり、直接心身の健康に好まし影響を及ぼしたりすると考えられています。
ソーシャル・サポートの種類にも複数があります。よく知られているものとしては、ハウス(J. S. House)による4分類があります。
- 道具的サポート:金銭や必要なものを貸し与えたり、直接力を貸すといった、実際的なサポート。
- 情報的サポート:当人が自分で問題の解決にあたることができるよう、必要な情報や知識を提供するサポート。
- 情緒的サポート:励ましたり、愚痴を聴いたり、相談役になったりなど、情緒面でのサポート。
- 評価的サポート:当事者の行動が、良いか悪いか、社会的に好ましいか好ましくないかなど、適切な評価を与えるサポート。
介護の場面で使えるカウンセリング技法
感情の反射
「感情の反射」とは言葉のなかに含まれている相手の気持ちを受け止め、その気持ちを相手に言葉で伝え返すことです。
例えば、「母親の認知症がすすんで、自分のことも忘れてしまった。かなしいです」という発言に対して「かなしいですね」と鏡に反射するように伝え返すことです。
そんなオウム返しのようなことしても意味ないんじゃ?
感情の反射には次のような効果が期待できます。
- 利用者が「自分の気持ちをわかってくれている」と感じることができる。
- 相手の口から自分の気持ちを聞くことで気づきにつながることがある。
- 自分の気持ちを伝え返されることで、自分の気持ちを再確認できる。
感情の明確化
「感情の明確化」は利用者がうまく言葉にできない気持ち、例えば、「なんか、こうもやもやするような・・」みたいな気持ちに対して、支援者が感情を汲み取って、「 頭では理解しているけれど、心が追いついてこないような感じですか?」とか「相手の発言に納得できていない部分はありますか?」というようなかんじで、フィードバックしながら利用者の気持ちを明確にしていくことです。もやもやした気持ちがはっきりすることで、それまで意識していなかった自分に気づいたり、気持ちが整理できるといった効果が期待できます。
要約
会話の内容、意味、感情などを総合的に理解し、要点をまとめて相手に伝える技法です。 話し手が若干混乱しているときなどに、話の内容を整理するの役立ちます。また、ちゃんと聞いてくれている、わかってくれているという安心感にもつながります。
言い換え
介護者側が別のよりわかりやすい言葉に言い換える技法です。
焦点化
焦点化とは利用者が本当に聴いてほしい課題、悩みに焦点を絞ることです。焦点を絞り、本筋からズレないように話をすすめることで、どの悩みに対して援助するのか、どういう方向性で援助するのかを明らかにすることができます。
例)
・現在はどういう状況なのですか?(時間に焦点を当てる)
・まず相続関係がどのようになっているかから整理してみましょう(1つの問題に焦点を当てる)
・今、何が一番不安ですか?(利用者の気持ちに焦点を当てる)
直面化
直面化はものごとを逃げずに見つめることで、利用者に、自分の課題、悩みはなにか気づいてもらうためのヒントを与えることです。
利用者は、しばしば、問題の本質から目をそらしたり、逃げたりしてしまうことがあります。なので、受容と共感だけでは、悩みや課題が解決しないことがあります。そこで、例えば、「先ほどから、娘さんのお話する度に、違う話に変わってしまいますが、娘さんの話はつらいですか?それとも何か特別な理由がありますか?」というようなかんじで、直面化して利用者と問題を共有して、利用者の気づきを促します。
ただじっと受容的、共感的に聴くだけではなく、時には直面化すること。この両方が大切です。ただし、直面化は、相手をただ傷つけるだけになったり、反感をかってしまうだけになったりする可能性もあるので慎重に使う必要があります。
バイステックの7原則
アメリカの社会福祉学者のバイステックの定義した対人援助にかかわる援助者の行動規範です。この原則に沿って自分の支援内容を振り返ると気づく点も多く、有用なので紹介しておきます。また、それほど出題頻度は多くないですが、介護福祉士国家試験でも出題されることがあるので、覚えておきましょう。
1.個別化の原則
利用者の抱える困難や問題は、どれだけ似たようなものであっても、人それぞれの問題であり同じ問題は存在しないとする考え方です。援助者の主観で人格や環境を決め付けず、利用者を個人としてとらえなければなりません。
介護の現場での個別ケアと通じるものがあります。
2.意図的な感情表現の原則
利用者の感情表現の自由を認める考え方です。特に抑圧されやすい否定的な感情や独善的な感情などを自由に出してもらうことで、利用者の人柄や、抱えている問題を把握しやすくなります。
あのスタッフさんにはちょっと話にくいわね・・
どの事業所でも利用者がこのように感じてしまう場面は少なくないと思います。介護福祉職は利用者がこのように思う原因を調べ、利用者が自由に感情表現できるように工夫する必要があります。
3.統制された情緒関与の原則
援助者自身が利用者の感情に飲み込まれないようにすることです。利用者を正確に問題解決に導くために援助者自身が利用者の心を理解し、自らの感情を統制して(自分の感情を自覚できているか。過度な感情移入をしていないか等)接していくことを要求する考えです。
介護の現場では認知症の症状などで、理不尽な怒りをまき散らす利用者も珍しくありません。その対応の際には自分の感情をコントロールし、冷静に対応する必要があります。
4.受容の原則
利用者の態度や行動を道徳的・感情論的な立場から、批判・是認などをせず、あるがままに受け容れることです。
介護の現場では基本ですね。
5.非審判的態度の原則
利用者の行動や思考に対して援助者はそれを「正しいことです」「悪いことです」というように判断しないとする考え方です。
6.自己決定の原則
あくまでも自らの行動を決定するのは利用者自身であるとする考え方です。問題に対する解決の主体は利用者であり、このことによって利用者の成長と今後起こりうる同様のケースにおける利用者自身での解決を目指します。この原則によって、援助者による利用者への命令的支持が否定されます。
介護の現場では利用者主体の自立支援の考え方に通じます。
7.秘密保持の原則
利用者より知り得た事柄の守秘義務です。利用者との信頼感をつくりあげるのに必要です。
ジョハリの窓
出典 タレントマネジメントのカオナビ
自分自身のこころ全体を窓枠として想定し、「自分が知っている」あるいは「知らない」を縦に、「他人が知っている」あるいは「知らない」を横に分割してできる4つの小さな窓(①開放の窓、②盲点の窓、③秘密の窓、④未知の窓)をジョハリの窓といいます。
どのように使うのですか?
基本的にグループワークで行います。自分自身について自分はこうだと思う特徴などを下のようなシートに記入し、また、他の参加者それぞれについて、印象や特性を別のシートに記入していきます。
出典 タレントマネジメントのカオナビ
最終的に全て集計し、例えば「怒りっぽい」という記述が、Aさんが書いた自分自身のシートにあり、他の人もAさんについて「怒りっぽい」と書いていたら、自分は知っていて、他人も知っている「開放の窓」に「怒りっぽい」と書くような感じで、ジョハリの窓を埋めていきます。↓
出典 タレントマネジメントのカオナビ
開放の窓
開放の窓が多く埋まっている場合、「他人から自分はこう思われている」と考えている主観が、実際に他人の認識と一致している状態です。一方、開放の窓に該当する項目が少ない場合には、自己開示がさほど行われていない傾向が浮かび上がり、「何を考えているかわからない人」といったイメージを持たれている可能性があります。
この開放の窓が大きくなるほど、自分の認識と相手の認識にズレが生じにくくなることから、コミュニケーションがとりやすく、信頼感が生まれやすい状態と評価できます。
秘密の窓
秘密の窓に該当する項目が多い場合は、周囲に自己開示ができておらず、自分の本質的な部分をさらけ出せていない状態と捉えられ、相手と打ち解けにくい状況となっている傾向が浮かび上がります。一方、秘密の窓に該当する項目が少ない場合は、周囲に自己開示ができており、ありのままの自分を見せている状態です。
盲点の窓
盲点の窓に該当する項目が多い場合は、客観的な自己分析ができていない可能性が疑われます。自分の認識と周囲の認識のズレが大きい傾向もあり、知らないうちに他人に不快な思いをさせていることも考えられます。
自分では気づいていない盲点の窓に向き合い、認識の違いを受け入れることで、改善すべき点や潜在的な能力の発見などに活かしていけます。
未知の窓
未知の窓に該当する項目が多い場合は、秘めた可能性が広がっている状態です。新しい経験をして未知の窓に気づくことで、成長につながっていきます。
※自由に特徴などを記述していくやり方の場合、「未知の窓」に該当するものは表れません。どんな隠れた特性があるか、診断を経て気づいた点を共有して掘り下げながら、相手と推測していくことになります。あらかじめ用意された選択肢を選んでいくやり方の場合はここにも該当するものが表れます。
ジョハリの窓は自己理解のズレに気づくためのフレームワーク(手法)の1つです。自己理解のズレを一致させていく、つまり開放の窓を大きくして、未知の窓を小さくすることで他人とのコミュニケーションを円滑にできると考えられています。
言語的コミュニケーションに用いる道具
介護記録
言語的コミュニケーションとしての記録です。利用者の言動や状態の変化、実施したサービスなどを記述してとどめることにより、支援の反省や共有、その日実施した介護サービスの証明として利用できます。
詳しくは『介護過程』で説明しています。
携帯用会話補助装置(トーキングエイドなど)
入力により文字が表示され、それを音声で読み上げたり、プリントアウトしたりできる機械。脳性麻痺などの肢体不自由者や失語症、知的障害など、会話や筆談が困難な障害者に利用されています。
透明文字盤
透明板に五十音表を記入し、発信者と受信者が文字盤を挟んで向かい合い、メッセージを1文字ずつ伝えて、読みとっていく方法を透明文字盤と呼びます。 話し手(要介護者)と聞き手(介護者)は正面に向き合って、目線が一直線になった文字や単語が言いたい言葉になります。
看護roo!
これまでのコミュニケーションに関する知識を踏まえて、ここからより実践的、具体的なコミュニケーション技術を説明していきます。
実践的なコミュニケーション技術
利用者家族との良好な関係の形成するためのコミュニケーション技術
家族の関係性を把握する
家族と利用者の関係は良好なほうがよいのは当然ですが、これまでの家族の歴史から修復不可能になっていることも少なくありません。
できれば息子とは話したくない・・・
介護福祉職の主観的な判断ではなく、 家族の個性や生き方を尊重した対応が求められます。
家族の介護への努力を認める
家族の介護への努力を肯定的に認め、受容的な言葉やねぎらいの言葉をかけることが大切です。
悪い例を出します。
そのやり方だと、あまり効率よくないですね、こうやったほうがいいです。
‥‥
家族に対して、助言や指導を行う場合は、これまでの家族のやり方をすぐに否定、訂正するのではなく、その方法を尊重しながら、よりよい方法を見出していくことが大切です。
上の例だとこのようなかんじです。
そのやり方でも特に問題はないですね。でもこうやると、本人もご家族の負担も少し軽くなるかもしれません。よかったら使ってみてください。
家族と利用者の意向が異なる場合
常にどちらかを優先させるのではなく、できる限り両者の意向を調整することが大切です。
筆者の勤務するグループホームで実際にあった事例ですが、
利用者本人はタバコを吸いたい。(今までずっと吸ってきたんだから大丈夫だ!)
家族はタバコをやめてほしい。(からだが心配)
両者の意向を調整する手段として、電子タバコを利用しました。最初は「こんなのタバコじゃない!」と怒っていましたが、しばらく吸っていると「煙がでなくなったから、新しいやつちょうだい」と電子タバコになじんできました。最終的に月にひと箱程度の電子タバコに落ち着きました。常にどちらかを優先させるのではなく、できる限り両者の意向を調整することが大切です。
視覚障害のある人とのコミュニケーション
ポイントは、
- 視覚情報は整理して口頭で伝える 。
- 会話の終わりや区切りがわかりやすいように心がける 。
- 名乗りながら声をかける。
また、点字やPC(テキスト入力された文字をソフトで音声に変換するソフト等)、レコーダーとしてスマートフォン等を利用することで、コミュニケーションがはかどります。
聴覚障害のある人とのコミュニケーション
以下のような目でみてわかる、伝達方法を利用します。
手話
(耳や口の不自由な人が)手を用いて表現する伝え方です。
指文字
手の形を五十音や数字に対応させ、視覚的に会話します。手話で表現が困難な人名・地名などを表現します。
出典 https://happylilac.net/sk1805311413.html
読話
話し手の口唇の動きを見て会話の内容を理解します。
筆談
会話の内容を紙などに書いてもらい理解します。中途失聴者とのコミュニケーションに有効です。
空書
文字を空中に書いてもらい会話を理解します。
触手話
送り手のする手話に受け手が触れて、内容を読み取る方法です。盲ろう者(視覚と聴覚の両方に障害のある人)との会話などに用いられます。
難聴の人とのコミュニケーション
ポイントは、
- 驚かせないように、話しかける前に正面にまわって肩をたたくなどの合図をする。
- 顔を向き合わせ表情や口元が見えるように話す。
- 口の動きをはっきり、ゆっくり話す。
- 通じにくい場合は他の言葉で言い換えたり、ジェスチャーをつけたりする。
補聴器
難聴の人が音声をよく聞こえるようにする目的で装着するのが補聴器です。耳穴の中に収めるタイプや、耳の後ろにかけるタイプ、眼鏡型、箱型などいろいろあります。箱型は、ポケット型ともいわれ、
イヤホンは左右の耳の聴力が低下している場合には両耳に補聴器を装用するのが理想的です。
どちらか片方であれば、左右に聞こえの差がなければ、利き手や電話との関係、生活環境などで判断します。
聞こえに差が有る場合は基本的には聞こえの能力が高い方に補聴器をつけます。ただし、聞こえの悪い方に補聴器をつけ、左右のバランスをとる場合もあります。左右の聴力と使用環境で異なるので、よく相談して決めることが大切です。
雑音の多いところでは箱型補聴器の音量を下げ、補聴器本体のマイクに話しかけてもらうようにします。ただ、最近のものは雑音抑制機能もついており、会話以外の音は雑音と認識し、自動的に抑制することが可能です。その場合は、音量は常にその人の聴力に応じたものに調整しておく必要があります。
補聴器で、快適に聞こえるようにするためには、その人の聞こえの状態をしっかり把握して、聴力や聞こえに合わせてきめ細かく調整しなければなりません。 使用する人に合わせて調整することを前提とした補聴器は、補聴器専門店などでの対面販売が基本となっています。購入後も、生活の中での聞こえに合わせて、調整を繰り返すことでより自分に合った補聴器をつくり上げていきます。なので購入したら、すぐ完璧に使えるというものではありません。
構音障害のある人とのコミュニケーション
構音障害とは構音器官(口唇、舌、口蓋、咽頭など)の欠陥により、話す機能が障害された状態です。
構音器官の問題で話す機能が障害されているだけであり、言葉の理解に問題はありません。言葉にうなずいたり、聞き取れた通りに言葉を繰り返したりしながら、ゆっくりと話を聴く姿勢が大切です。
話が聞き取れないときは、わかったふりをするのではなく、筆談や五十音表、閉じられた質問を用いるなどして意思の確認をする必要があります。
認知症の人とのコミュニケーション
認知症がある人は特に、忘れてしまうことから「自信消失」「不安」「困惑」「焦燥感」を持たれています。また、情報処理能力が低下しているため、一度にたくさんのことを伝えると混乱してしまいます。このことを念頭に置いて以下の留意点に気を付けながら、介護福祉職はコミュニケーションをとらなければなりません。
- 情報を伝えるときは、簡単な言葉、短い文章を使って、簡潔に1つずつ伝える。
- 話しかける位置は、正面から目を見て話しかけるようにすると、誰に対して声かけしているかが伝わりやすくなります。後ろから話しかけたり、遠くから声をかけたりすると、驚かせてしまったり、振り向いた際にバランスを崩して転倒したりするリスクがあります。
- 認知症によって記憶の障害や認知機能の低下などが生じると、その人の頭の中での世界と客観的な現実の世界にずれが生じます。不可解な言動の背景にはこのようなずれがあることを理解し、事実を説得するより、その人の信じる世界を受容したコミュニケーションが求められます。
- 認知症の人の誤りを指摘したり修正させたりすると、自尊心を傷つけ、不安や混乱、反発といった否定的な感情を引き起こしてしまうことがあります。論理的に思考することが困難になるため、日常生活で使っている言葉で、情緒的に納得してもらえるようなはたらきかけのほうが効果的です。
双極性障害のある人とのコミュニケーション
双極性障害とは、高揚した気分を特徴とする躁状態と憂鬱な気分を特徴とするうつ状態を交互に示す精神疾患です。
躁状態のときには、普段のその人とは全く違う態度や言動をとったり、信じられない額の浪費をしてしまったりします。そのため、周囲も驚いたり、困惑したり、感情的になったりしてしまいます。しかし、躁状態の場合、本人の自覚が乏しいため、できるだけ刺激しないように心がけながら「あなたのことを心配している」という事実を伝え、客観的に状況を伝えることが大切です。
統合失調症の人とのコミュニケーション
統合失調症の人とのコミュニケーションに関してはこちら記事に書いています。
⇒障害の理解「統合失調症」
うつ病の人とのコミュニケーション
うつ病の人とのコミュニケーションに関してはこちらの記事に書いています。
⇒障害の理解「うつ病」
失語症の人とのコミュニケーション
まず失語症とは何かというところから説明していきます。
失語症は高次脳機能障害の1種であり、主に脳出血、脳梗塞などの脳血管障害によって脳の言語機能の中枢が損傷されることにより、獲得した言語機能(聞く、話すといった音声に関わる機能、読む、書くといった文字に関わる機能)が障害された状態です。
失語症はよく、「言葉の分からない国に放り出された状態」に例えられます。私たちが外国に行ったとき、現地の人とは言葉が通じず、相手が何かを言っていることは聞こえるが、その内容を理解することができない。看板などに何か書いてあることはわかるが、音読し意味をつかむのが難しい。相手に伝えたいことや自分の考えはあるが、それをすらすらと伝えることも困難になる。
失語症は聴力や視力、記憶力や判断力などに問題はないが、言葉にかかわる働きのすべてがうまくいかなくなってしまいます。聴覚能力自体は低下しないため、耳元で大きな声で話しかける必要はなく、手話は有効なコミュニケーション手段にはなりません。
主な失語症のタイプは、
- 運動性失語症(ブローカ失語症)
- 感覚性失語症(ウェルニッケ失語症)
- 全失語症(すべての言語機能の不全)
などがあります。
運動性失語症(ブローカ失語症)
運動性失語症は、脳(左脳)の比較的前の方の部分に障害が起き、運動性言語中枢(別名:ブローカ中枢)に障害がある状態です。
このタイプの失語症は、イメージが言葉になる過程で障害がおこるため、話すことがうまくできず、文字を書くことができません。また、言葉の発音が不明瞭になったり他の音に置き換わったりすることがあります。
軽度の人は文章で話せますが、スピードは遅く、言葉の発音はしにくいです。
重度の人は単語や短い言葉は話せるが、文章を話すことは難しいです。
ただし、言語の理解は比較的保たれているため、意思の確認には「はい」「いいえ」で答えられる閉じられた質問や、絵や写真など視覚化された情報の活用が有効です。
また、文字を読む能力も比較的良好なことが多く、ひらがなよりも漢字を読むことの方が得意であることが多いといわれています。
感覚性失語症(ウェルニッケ失語症)
感覚性失語症は、脳の比較的後ろの部分に障害が起き、感覚性言語中枢(別名:ウェルニッケ中枢)に障害がある状態です。
このタイプの失語症は、なめらかにぺらぺらと話すことができるが、言い間違いや、意味内容を伴わないジャルゴン(文法上の誤り、無意味な語や句、新しい造語などを含む発話)が多く、また相手の言っていることが理解できず会話が成立しないことがあります。
話すことよりも聞いて理解することが困難になるタイプの失語症です。
軽度の人でも複雑な文章は聞き取りにくくなり、重度の場合は日常の意志疎通が困難になります。文章の読み書きも苦手です。
聴覚的理解が難しく、間違いを指摘しても、何が間違いか理解することが困難なので言葉の言い誤りを指摘せずスムーズに話をすることが、良いコミュニケーションにつながります。
ウェルニッケ失語の方は非言語的コミュニケーションも苦手であると思われがちですが、絵やジェスチャーなどの非言語的な手段を用いてうまくいく場合もあります。絵よりも文字のほうが得意である可能性もあり、その人は何が得意かを一緒にさがしていくことが大切です。
失語症の人とのコミュニケーションのポイント
- 意思の疎通には集中力が必要で、疲れやすいことから静かな部屋で落ち着ける環境を提供する。疲れがみえたら小休止する。
- 記憶力や判断力が低下しているわけではないので、人格を尊重し、子ども扱いをしない。
- 利用者についての情報を集め、使い慣れた言葉を使うことや、共通の話題作りに努める。
- ゆっくり、はっきり話すことが大原則で、利用者の表情やしぐさを見逃さず、ちゃんと伝わっているか理解を確かめながらコミュニケーションをとる。
- 理解されにくいときはジェスチャー、道具(カレンダー、地図、時計etc)絵などさまざまな手段を用いて工夫する。
- 錯誤などの言い間違いをいちいち指摘、修正したりしないようにする。
- 伝わること、コミュニケーションを楽しむことを経験できるように支援する。
介護におけるチームのコミュニケーション
チームワークで介護の業務を進める場においては、記録を介することによって統一した介護実践が展開できます。介護における記録の目的は、以下のような点が考えられます。
- 利用者の生活の質を向上させるため
- 職員間の情報共有のため
- リスクマネジメントの可視化
- 介護職員の教育のため
- 介護福祉に関する調査や研究のため
介護場面で利用される各種記録など
記録上の注意として、訂正は修正液を使用せず、略語は決められた範囲のものを用いるようにします。また、記録はいつ開示を求められてもよいように、利用者との信頼関係を損なうおそれのある内容の記述には、十分注意を払う必要があります。
介護記録(ケース記録、利用者台帳)
利用者ごとの日々の生活や支援内容を時系列で記録していきます。介護サービスを実施したその日のうちに記録に残す必要があります。
※時系列での記録は、時間の流れに沿った記録です。
業務日誌(介護日誌)
情報共有のために施設や事業所の1日の全体的な行事や業務内容、特別の変化があった利用者の様子などを簡潔に記録します。また、当日の利用者数、出勤した職員や来訪者などを記録し、報告書作成のためのデータ管理としても位置付けられています。
事故報告書
介護保険事業者による介護事故の再発防止と速やかな対応を目的とした記録です。事故の状況および事故の際にとった処置についての記録を「介護保険サービスが終了してから2年間」保存します(地域の条例によっては5年間の文書保存を求めているところもあります)。そして介護保険事業者事故報告書として保険者(市区町村)へ提出することが必要です。
ヒヤリ・ハット報告書
介護業務を行っているときに「ヒヤリ」としたり、「ハッ」としたりした出来事を報告するものです。事故には至らずに済んだ出来事を、二度と繰り返さないための対策に役立ち、事故を予防する効果が期待されます。
エコマップ
利用者本人を中心として、その周辺にある社会資源(家族、兄弟姉妹、友人、近隣住民、医師、各種介護関連機関など)との相関関係を、図式化、視覚化したものです。生態地図とも言われます。
出典 Dearie
フェイスシート
サービス利用者の氏名・年齢・住所などの基本情報から、家族構成や職歴、既往歴などの立ち入った情報まで、聞き取った内容を書き込みます。介護サービスを初めて利用するタイミングや、介護施設に入所するタイミングで作成されるのが一般的です。
フェイスシートを作成する目的・役割は、主に次の2つです。
● 事業所内での情報共有
● 利用者に合ったケアプランの作成
ジェノグラム
家族構成やその関係性をわかりやすくした家系図およびマップです。
少なくとも3世代分の家系図を、記号と線を用いるマッピング(図式化)という手法で視覚的にすみやかに把握できるよう表したものです。
出典 Dearie
記録をIT化するメリット・デメリット
メリット
- 情報処理の自動化
例えば、水分摂取量の記録など、紙とボールペンで記録付けて、計算機で合計するというような作業はエクセルなどで行えば、自動的に合計してくれるので、ひと手間省けます。 - 情報共有の効率化
議事録など印刷して一枚一枚全職員にくばるより、ワードなどのファイルでメールに添付して送るなどの方が効率的です。 - 情報検索・抽出の迅速化
記録をIT化していれば、例えば、”転倒”に関する記述を見直したいときなど、転倒と文字を打ち込んで検索すれば一瞬で見つけられますが、紙だとぺらぺらめくりながら探さなくてはいけません。 - 情報セキュリティの向上
- マルチメディアの活用
音声や動画での記録の方が伝わりやすいものもあります。
デメリット
- システムが作動しないなどのトラブル
- 故意または過失による大量の情報漏洩
情報が、ネット上に拡散してしまうと取り返しがつかないこともあります。また、USBメモリなどの記憶装置は、携帯に便利ですが、紛失・盗難のリスクが高いので取り扱いには注意する必要があります。
※USBメモリは、PCに接続してデータを保存する小型の補助記憶装置のことです。 - 情報管理に関する知識とセキュリティ上の対策が必要になる
例えば、ウイルス対策ソフトを入れたり、安全のためにデータのバックアップや、パスワードの変更は、定期的に実施することがのぞましいです。
チームのコミュニケーションを高める報告・会議
■「報告」「連絡」「相談」は、利用者の生活を支援するチームの一員として仕事を進めるために不可欠であり、チームのコミュニケーションを円滑に進めることに意義と目的があります。
■会議は情報共有の場であり、問題解決の場でもあります。集まった人々の知識と経験を集め、検討課題の解決をすすめていきます。
■「カンファレンス」は「会議」という意味で、「ケアカンファレンス」は医療や福祉の現場で、よりよい治療やケアのためにスタッフ等関係者が、情報や目標の共有を図ったり、問題の解決を検討するための様々な会議のことです。
スタッフが学びや気づきを深めるために、事例検討を行うこともあります。ケアカンファレンスの場を職員のスーパービジョンの機会にすることもできます。スーパービジョンというのは、キャリアの浅い職員の専門職としての能力を高めるために、熟練した職員が教育・支援するはたらきかけのことです。
■ブレインストーミング(ブレスト)
ブレインストーミングとは、集団でアイデアを出し合うことによって相互交錯の連鎖反応や発想の誘発を期待する技法です。
ブレインストーミングの4原則
- アイデアに対して批判・否定をしない
ブレインストーミングでは、参加メンバーが自由なアイデアを出せる場を作ることが大切です。もしも、アイデアを出している途中で他の参加メンバーを批判・否定してしまうと、自由に意見できない雰囲気になったり、他の参加メンバーを萎縮させたりすることにつながります。自分が他人のアイデアに対して間違っていると思ったとしても、客観的視点から、そのアイデアに至った理由を深掘りすることが望ましいです。 - 変わったアイデアを歓迎する
誰もが思いつきそうなアイデアよりも、奇抜な考え方やユニークで斬新なアイデアを重視する。新規性のある発明はたいてい最初は笑いものにされる事が多いが、そこから価値のあるアイデアが生まれることがあります。 - 質より量を重視する
突飛な意見や荒唐無稽な意見であっても、それらを組み合わせるなど工夫することによって、新しいものを生み出せる可能性があります。量より質を重視すると、「他の発言者よりも優れたアイデアを出そう」「採用されるような質の高いアイデアのみを出そう」など、参加メンバーが発言の質にこだわってしまい発言が少なくなるといった事態が考えられます。アイデアの量を優先することで、メンバーが新しいやり方や発想にオープンになり、その結果として出てくるアイデアの質が良くなります。 - アイデアをまとめる
ブレインストーミングに期待されるメリットの1つに、「参加メンバーから出されたあるアイデアが、他のアイデアの種になる」といったシナジー効果が挙げられます。たとえば、一人が面白いアイデアを出したら、そのアイデアをベースに他の人がさらに良いアイデアを思いつくことがあります。このようにして、一つ一つのアイデアが集まって、より高品質なアイデアが生まれるわけです。また、各アイデアを深掘りしたり改善したりする過程で、新しい視点や方向性が見つかることも多いです。
チームマネジメント
組織運営
組織とは、一定の共通目標を達成するために、「構成員の役割や機能が分化・統合されている集団」とされています。つまり、構成メンバーが皆、一つの目標を持ってそれぞれ与えられた業務・作業を行っているということになります。
組織は、機能・役割毎に業務を分担し、専門性を高めて、各部門がこの機能と役割に責任を持つことで、質の高いサービスを提供できます。これは水平方向の分業と言われます。
例えば、訪問介護事業所で、新規利用者を獲得するための営業部、実際に介護サービスを提供する現場の介護職、経理などを行う事務というように分業する感じです。
また、部門別に階層を形成し、責任の定義や権限委譲を行うことで、組織は最適化されます。これは垂直方向の分業と言われます。
例えば、実際のサービスを提供する介護部門で、リーダー、サブリーダー、一般職員などの階層に分けることです。
組織設計の5原則
- 責任・権限一致の原則
- 命令一元化の原則
- 統制範囲の原則(スパンオブコントロール)
- 専門化の原則(分業化)
- 権限移譲の法則(例外の原則)
責任・権限一致の原則
例えば、100人集客するために、広告費100万円が必要な仕事があるとします
左側のように100人の集客しないといけない責任に対して、広告予算が30万円しかない場合、つまり責任が権限よりも大きい場合、責任を果たすために十分な権限がないため、取り組む前から「あきらめ」が生まれます。また、結果が出せなかったときには、自分の責任ではなく、権限がなかったから、30万しか広告に使えなかったから、と「責任逃れ」が発生します。
逆に、
100人の集客責任に対して、広告予算が500万円の場合、つまり権限が責任よりも大きいの場合は、十分すぎる権限があるため、たとえば無駄な広告を作って「無駄」使いをしたり、直接集客につながらないことに予算を使用する「無責任」な行動が発生します。
このように責任と権限の不一致は大きなデメリットがあるので、責任と権限は一致させることが重要です。
命令一元化の原則
組織のメンバーは、常に一人の上司から命令を受け、指揮・命令系統を一元化するべきという原則です。複数の上司から異なる命令を受けると、指揮・命令が矛盾することにより、現場に混乱が生じ、業務効率が大きく低下します。
統制範囲の原則(スパンオブコントロール)
一人の管理者が直接的に管理できる部下の人数には限界があり、これを超えると管理効率が低下するという原則です。管理者一人あたりが統制できる人数は、一般的には5〜10人程度、と言われています。
専門化の原則
組織では、機能毎に業務を分業し、専門性を高めることで生産性の向上を図るという原則です。さっきの水平方向の分業のことです。専門化することで、スキルが上達しやすくなり、また、知識や技能、ノウハウなどを蓄積することによりミス・トラブルを減少させ、効率化をはかることができます。
権限移譲の原則
ルーティーン作業やマニュアルに則った業務などは部下に権限委譲し、管理者は例外な業務処理に専念するべきという原則です。
例外な業務というのは、例えば、他の事業所と合同で新しい事業を起こすための話し合いとか、管理者としての意思決定が必要な業務です。
上司の業務権限の一部を部下に分け与えて、本人の裁量で仕事をさせ、社員の自律性を高め、成長を促進させることを目的としていて、ひいては組織・企業全体の生産性の向上に繋がります。
業務効率化のためのフレームワーク
フレームワークというのは、一般的には、何らかの型や枠組みという意味で使われます。
業務効率化のためのフレームワークと言えば、業務を効率化するための、手順、決まりきった型という意味です。ここではPDCAとOODAの2つを紹介します。
PDCA
Plan(計画)→Do(実行)→Check(評価)→Action(改善)
Plan(計画): 問題や改善点を特定し、解決や改善のための計画を立てる。
Do(実行): 計画に基づき行動や対策を実施する。
Check(評価): 実施した結果を評価や検証する。
Action(改善): 評価や検証の結果を元に、実際の行動や改善策を実施する。
このサイクルを繰り返し回すことで、業務の改善を目指す方法です。
OODA
PDCAが「計画を立て、行動する」というプロセスを踏むのに対し、OODAは「状況を見て臨機応変にまずはやってみる」ところから始まります。
observe(観察)⇒Orient(方向づけ)⇒Decide(意思決定)⇒Act(行動)
というサイクルを回します。
商談数を上げたい、商品サービスの受注率をアップさせたいといった、既に前例があったり使えそうなデータがある場合は、PDCAが有効です。前例やデータがあれば、比較すべき要素や次の計画もある程度見えるため、効率的に進められるので。
一方で新規事業など、新たな商品やサービスを開発する場面においては、手探り状態からのスタートになるため、OODAを活用しやすいです。
OODAは計画を立てる時間がない、計画の必要性がない場面を想定しているため、新規事業など新しい発想を必要とする場合や、前例がなく、やってみないとわからないような場合に効果を発揮します。
OODAループの目的は、状況の変化に迅速かつ柔軟に対応し、継続的な改善を促すことです。このフレームワークは、特に変化が激しいビジネス環境において、効率的な意思決定を支援します。
このように、両者はそもそも性質が異なっているため、優劣の比較をするべきものではありません。それぞれの特徴を理解して、「この場面にはどちらが適しているのか」を判断して使うことが大切です。
リーダーとフォロワー
チームの構成員には、チームをまとめる立場にあるリーダーと、リーダーから指示や影響を受けて行動するフォロワーが存在します。
チームにおいて、リーダーが発揮すべき意識や行動のことをリーダーシップといい、フォロワーがリーダーを支える機能のことをフォロワーシップといいます。
リーダーの役割の1つが「ビジョンや組織の方向性を示す」ことであるのに対し、フォロワーの役割は「具体的な行動計画を立て実行する」ことです。
フォロワーシップのある組織は、リーダーが示したビジョンをフォロワーが具体的な行動計画に落とし込み、当事者として業務を遂行していきます。
【リーダーシップの例】
コロナ禍で外出ができなくなって、利用者のストレス軽減のためにも、施設内での娯楽やレクリエーションに力を入れる、という方針をリーダーが打ち出す。
【フォロワーシップの例】
フォロワーが、YouTubeを利用したカラオケやプロジェクターによる映画鑑賞など、具体的に娯楽を考えたり、「それは、家族から批判がくる可能性があるので、少し調整したほうよいのでは」みたいな感じで、建設的な批判をしたりする
人材の育成
OJT
On-the-Job Trainingの略で、職場での実践を通じて業務知識を身につける育成手法のことです。
経験豊富な職場の上司や先輩が、実際の業務を題材に若手社員や後輩に知識や技術を計画的に伝えることで、研修やマニュアルだけではなかなか実践につながらない知識・スキルを身につけることができる手法です。
「OJT=目の前の仕事を教えること」という誤った理解に注意です!
OJTは、「意図的・計画的・継続的」に行うことが前提で、場当たり的に実践しても成果にはつながりません。
Off-JT
Off-The-Job Trainingの略で、新入社員研修や管理職研修、また個別のスキルを高めるための研修など、実務の場を離れて行う教育施策のことです。
例えば、外部講師を招いてビジネスマナーや仕事の考え方を教える等です。
SDS
Self-Development-Systemの略で、社員の自主的な勉強を支援する制度のことです。
研修だと受け身になってしまうことも多く、また専門技術・スキルなどは社員によっては個人で学んだ方が早く身に付くこともあります。そのような場合に、SDSによって個人の取り組みを奨励します。
具体的には、
- 資格取得費用補助(試験代・テキスト代など)
- 資格手当
- 学習スペースの提供
- 必要な図書の購入
など。
ティーチングとコーチング
OJTの方法には、リーダーが指示や助言を通して、スタッフに必要な知識や技術、仕事のやり方などを教えるティーチングと、リーダーが質問をすることで、スタッフに考える機会を提供し、答えを引き出していくコーチングがあります。
ティーチングが講義を受けるかんじで、コーチングが演習というイメージです。
スーパービジョン
対応方法がわからない問題に直面したとき、一般的には施設の責任者から指導を受けたり、アドバイスをもらったりして課題を解決していきますよ。このアドバイスをくれる人(スーパーバイザー)が、アドバイスを受ける人(スーパーバイジー)に対して定期的に適切な指導をしていくことを「スーパービジョン」といいます。
コンサルテーション
いわゆる、コンサルのことで、専門的な相談、助言のことです。例えば、介護保険施設の管理者が税理士にコンサル入ってもらって、節税の相談をする等です。
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