介護過程の意義と目的
介護過程は、利用者が望む「よりよい生活」「よりよい人生」を実現するという、介護の目的を達成するために利用者の課題(生活課題)を介護の立場から系統的に判別し、解決するための計画を立て、実施し、評価する一連の過程をいいます。介護過程は、問題解決アプローチです。介護過程を展開することにより、客観的で科学的な根拠に基づいた介護の実践が可能となります。
介護過程のプロセスは、専門知識や技術を統合して、アセスメント→計画の立案→実施→評価の順に系統的な方法で行われます。
もう少しイメージしやすいように、実例を紹介しておきます。
- STEP1アセスメント
- どこの店に行くか
- 何か具体的に買いたいものがあるのか
- 道に迷わず往復できるか
- 歩行状態に問題はないか
- 信号や道路の横断は安全に行えるか
- 既往歴にアルコール依存症
など細かく現状をアセスメントします。
- STEP2計画の立案
現金のみ(¥2000程度)を持ってもらい、一人で買い物に行ってもらう。スタッフが気づかれないように後追いする。
- STEP3実施
計画の実施。
- STEP4評価
- 歩行状態問題なし。
- 施設と店を迷わず往復可能。
- 支払いはできる。
- 日本酒を購入していた。
1人で安全に買い物に行けるということは分かったのですが、日本酒を購入してしまうという課題が新たにでてきました。
このように、アセスメント⇒計画の立案⇒実施⇒評価
を繰り返して、できるかぎり本人の希望に近づけるように支援を洗練させていきます。
今回の場合、アルコール依存症の既往歴があるので、今後は自由に買い物に行ってもらって構わないというようにはできないですね。
お酒を購入するという点もふまえて再アセスメントし、新しい支援を考える必要があります。
介護過程の展開
介護過程を展開する際の重要な視点
- ICFの視点に基づく利用者像の把握
- 尊厳を守るケアの実践
- 個別ケアの実践
- 生活と人生の継続性の尊重
- 生きがいや役割のある生活
- 生活の自立支援
- 他職種との連携
- 根拠に基づく介護実践と的確な記録
情報収集とアセスメント
情報収集とアセスメントの部分をもう少し深堀していきます。
アセスメント
アセスメントは介護の必要性を総合的に判断するために、利用者について情報収集し、集めた情報の解釈・関連付け・統合化を行い、利用者の課題を明確にすることです。このアセスメントの段階が、専門的な知識や経験、判断が最も必要とされます。
利用者の望む生活を実現または継続するために、利用者の課題を明確化する必要がありますが、そのためには、収集した情報を解釈し、関係性を明らかにしたうえで、顕在的課題のみならず、その要因と今後の予測を含めて判断する必要があります。つまり利用者の課題は
- 顕在的課題(今現在現れている課題)
- 顕在的課題の要因を明らかにして
- 潜在的課題(顕在的課題から予測される二次的課題)
これらを含めて明らかにすることが重要です。
例えば、課題の記述として、「徘徊がある」ではなく「血管性認知症が原因と考えられる徘徊、無断外出があり、事故に遭遇する危険性がある」といったように表現することで、課題がより明確になります。
アセスメントの際の情報収集については、その人のものの見方や考え方等の主観的情報と他人が直接的に観察できる客観的情報があります。
介護職は、押しつけの介護にならないよう、利用者の主観的情報を常に確認することが大切です。したがって、これら2つの情報は、区別して記録する必要があります。
情報収集の方法は、まず、利用者に接しながら主観的情報を集めます。プライバシーに配慮しながら、少しずつ情報を集めます。最初から無理にすべてを聞き出そうとすると不信感を持たれてしまうかもしれないので注意します。客観的情報は、身体の観察、行動の観察、家族や関係者、他職種、記録類等から集めます。
そして情報収集を行うときは次のような点に留意します。
- 利用者の状態から正しく情報を得るために、観察力を身につける
- 利用者の個別性を理解するために、先入観や偏見をもたない。
- 意図的に情報を収集し、情報の取捨選択をする(つまり必要な情報を判断するということです)
- 利用者の「できない」ことだけでなく、「できる」ことについても情報を収集する。
- 多角的な視点で複数の情報を収集する。
- 家族や関係者、他職種からの情報を収集するときは、あらかじめ利用者の同意を得ておく。
といったところです。
インテーク
インテーク(受理面接)は、相談に訪れた人に対して、相談機関が行う最初の面接をいいます。この面接を通して、相談者の訴えを傾聴し、情報を収集し、相談者が求めている援助と解決すべき課題を明らかにします。また、相談機関が提供できるサービスを説明し、相談者の要求に適合するかどうかを検討し、相談者がサービスを選択できるようにする大切な面接です。
アウトリーチ
アウトリーチは、手を伸ばすことを意味します。生活上何らかの問題を抱えながらも自ら支援を求めない。支援を拒否する、あるいは本人の意識に問題として顕在化していない利用者や地域社会に対して、援助者側から積極的に出向き、問題解決への動機づけを高めるように行う専門的援助のことをいいます。社会福祉分野だけでなく、医療分野、科学技術分野、芸術分野などでも行われる活動です。
介護記録の形式
SOAP形式
SOAPとは「Subjective Objective Assessment Plan」の略で、以下の4つの流れを指します。
- S(Subjective)
主観的な情報。つまり、利用者・家族等が訴えたことや、その時の事実のまま記載する。 - O(Objective)
客観的な情報。つまり、援助者の目で見たこと、聴いたこと、体験したこと。その事実だけを記載する。 - A(Assessment)
入手した客観的な事実、それに対する援助者の評価、課題分析をさします。客観的な情報に加味された援助者の専門的な判断結果です。 - P(Plan)
アセスメントに基づいた計画の作成、あるいは計画の修正などです。
さっきのFさんの実例をSOAP形式で書いてみます。
- S
グループホームに入居しているMさん(80歳、女性)が、「今日(ホームの)買い物の予定ある?なければちょっと散歩してきていい?」と外出の希望をスタッフに告げ、外出された。小銭の入っているバッグを持ってでかけられている。 - O
スタッフ後追い。最寄のスーパーへ入られる。パックの日本酒を購入し、近くの公園を散歩した後に戻られる。 - A
道中の歩行は安定している。見当識もしっかりしており、近距離の外出ならば問題ない。若いころにアルコール依存症の既往歴がある。家族がお小遣いとして来訪されるたびに1000~2000円を渡している。 - P
外出希望がある時は、スタッフや他入居者と一緒に行くようにする。お酒の購入はできないようにスタッフが適宜声掛け対応する。お菓子などは自由に購入してもらう。
叙述体での記録
叙述体は、時間の流れに沿って、利用者の状況の変化や支援の内容などを記録していく方法です。この記録法では、過去からの時間の流れに沿って、何がどのように変化したのかがわかるとともに、どの時点で何が行われたのか、いつ誰がどのようなことを行ったのかなどが明確になります。したがって、起こった出来事の前後関係が明確になり、その原因の分析や対応の妥当性を検証することなどが可能になります。
要約体での記録
要約体は、利用者に対する支援の内容などを項目ごとに整理してまとめるもので、全体像や要点を整理するのに適しています。この記述方法は、書き手の思考を通過して表現されるため、書き手の着眼点を明確にできるという特徴があります。必要な項目別に抽出して整理する方法なので、生活歴の記録、アセスメントの要約、各種報告書などによく使われます。
説明体での記録
説明体は、事実に加えて、支援の過程で起こるさまざまな出来事に対する書き手の解釈や考察を記録する方法です。記録のなかには、事実と解釈や意見との区別がつきにくいものがありますが、「事実」と「事実に対する解釈・意見」とは区別して書くことが重要です。
介護過程における課題・目標・計画・実施・評価
課題
利用者に複数の課題がある場合は、優先順位を決定しなければなりません。優先順位の決定にあたっては、一般的には
- 生命の安全
- 生活の安定
- 人生の豊さ
の順になることが多いです。
課題の優先順位の決定にあたっては、マズローの欲求階層説も目安になります。一般的に、下位の欲求ほど優先順位が高いと考えることができますが、100%ではありません。例えば、安定した生活を犠牲にしてでも世界中を旅したいというような人もいると思います。
目標
生活における目標の設定とは、利用者自らが自分の望む生活に向けて、一定期間に実現できることを段階的に進めていくことができるよう、意思決定をしていくことであり、利用者中心の視点でなければなりません。
目標設定のポイント
- 個別的であること(一人一人の生活習慣や価値観を尊重する)
- 利用者の自己実現を目指すものであること(家庭や社会への参加を可能にする。)
- 利用者自身が取り組むことができるものであること(能力を最大限に発揮する)
目標の書き方のポイント
- 生活課題が介護によって解決されたとき、利用者がどのような行動(状態)になればよいかを利用者を主語として記述する。
- 実施した介護を評価する基準となるように観察あるいは測定可能な表現にする。
- 目標到達の時期を明記する。
「少し歩けるようになる」「なるべく早く」などの表現はよくないですね。「手すりを持って10メートル歩行できる」「一か月で」のように書かなければ、達成できたのかできなかったのか、評価ができません。
長期目標と短期目標
長期目標は、課題が解決した状況を表現します。
短期目標は小さな一歩ずつの目標です。
例えば、長く入院してた人が、施設に戻ってきたとして、長期目標が『公園に一人で散歩にいく』で、短期目標が、『イスから手を使わずに立ち上がれるレベルまで下肢筋力を鍛える』、『2キロメートルを休まず歩行できる』というかんじです。
目標は期限を明確にして、いつその期待される結果が現れるか、あるいは、いつその経過を評価するかを明確にしておきます。目標と実態が合わないときは、目標の変更を検討します。
計画
利用者の望む生活を支えるために、利用者一人ひとりに対する介護計画を生活継続の視点から作成します。介護計画の作成においては、利用者のADL、QOLを含めて総合的に考える必要があります。また、1人の利用者に複数の人(看護師、社会福祉士等)がかかわるチームアプローチを想定して、5W1Hを踏まえてより具体的・個別的に記述します。利用者本人や家族を中心に、利用者にかかわる人たち全員が共有できるようにしておくことが求められます。
5W1Hは、
when(いつ)where(どこで)who(だれが)what(何を)why(なぜ)how(どのように)
です。
計画のなかには観察内容を明示します。長期目標や短期目標が到達できたかどうかの評価の基準を明示することによって、目標の到達度を評価することができます。評価の基準が明らかにされていないと、実践した介護活動を客観的に評価し、計画を適切に修正することができません。
ケアの標準化と個別化
ケアの標準化とは、組織が定める標準的なケアの方法・手順をマニュアル化し、業務手順として統一することであり、ケアの個別化とは、その標準的な方法に加え、さまざまな状態、ニーズをもつ利用者一人ひとりに応じた介護サービスを提供することをいいます。
例えば、ケアの標準化は、「リビングには必ず一人はいるようにする」などで、ケアの個別化は「Mさんは失禁した時は、自身で洗濯場に衣類を持っていくまでは、気づいていないふりをする」などです。
実施
実施は、介護過程のなかで中心となる部分であり、介護活動を計画に基づいて実際に行う段階です。この段階が適切に行われれば、利用者の課題は解決もしくは緩和し、利用者の生活の質を上げることができます。実施においては、
- 自立支援
- 安全と安心
- 尊厳の保持
の3つの視点を常に意識してかかわることが大切です。
評価
評価は、設定した目標について、利用者が到達できたかどうかという点から介護福祉職が責任をもって検討します。
目標に到達していれば、介護過程は終了し、目標に到達していなければ、介護過程のプロセスを振り返って、評価・修正して、引き続き介護過程を繰り返していくことになります。
評価において、「目標に到達していない」という結果が得られた場合、または到達していても「継続が困難である」と判断した場合は、計画の修正を検討します。目標に到達していない原因を明らかにすることにより、計画のどの部分を修正すればよいのか、再アセスメントを行う必要があるか、などが判断できます。
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